加護と剣聖杯と勇者様【5】
最近、シズ1000がくれたタブレットがアップ・グレードしたらしくな?
こんな感じで、右手を掲げると、
ポンッ!
軽い小爆発と同時に、タブレットが召喚されて、右手に収まる様になったのだ。
これで、何処かに無くしてしまった時でも安心。
右手を掲げると言うポーズが、地味に恥ずかしいのだが……そこさえ気にし無ければ、結構便利な機能だ。
話によると、今後も少しずつ進化した便利機能を、アップ・グレードによってタブレットの中に搭載して行くらしい。
本当……シズ1000って、こう言う所は凄いと思う。
そして、アップ・グレードによって進化した機能がもう一つある。
「ヘイ、シズー?」
そうと、声を掛けてやると、
『はい、どの様なご用件でしょうか?』
なんと、AIっぽいシズが画面の中に出現し、
「限定版・ハーピー人形って、幾らするんだい?」
こんな感じで質問を口にすると、私の問い掛けに答えてくれる。
どうだ? 便利だろう?
……え? それって『シズー』じゃないよね? って?
しかも、ちょっと危険な名前じゃないか?……って?
そこは聞かなかった事にしておけ!
『税込7万8千870マールです』
ちょっと似てる機能は、別のメーカーにもあるかも知れないし『OK! グーグ○!』とかもあるわけだから、きっとここはセーフだ! それに、ここは異世界だからな? 異世界でここまで便利に素早く正確に答えてくれるのはちょっとない……ん? 待て? 七万っ⁉︎
「………」
私は絶句した。
そうか……。
これが……絶望と言うヤツか……。
「……か〜たま? まさか『買わない』なんて、言わないおね?」
程なくして、アリンが私へと言って来る。
そんなアリンは、既に降参宣言を審判に向けて答えており……そこからまもなくやって来た救護班によって回復魔法を施されていた。
厳密に言うと、エナジー枯渇による物だったので、救護班の人間が持つ気力を少し分けて貰い、立てる程度まで回復していた。
「………はは」
アリンの言葉に、私は乾いた笑みを作っていた。
そんなアリンは、これでもかと言わんばかりに可愛い可愛い笑みを私に向けていた。
まるで天使の笑みだ!
……でも、私には小悪魔の微笑にすら見えたぞっっ⁉︎
これは絶対に確信犯だ。
金額を言えば、絶対に断られると分かっていたので、敢えて言わなかったパターンだ!
尚且つ、自分は頑張っているんだと言うアピールを私に言った上で言っている!
つまり、アリンは勝っても負けても、私に限定版のお高い人形をねだり……そして、買わせる気だったのだ!
アリンちゃん……恐ろしい子!
全てを知った私は、外見だけは天使だった愛娘の微笑みを見据えつつ……超絶お高い人形を、どうやったら買わずに済むかを、ただただひたすら悩みあぐねる心境に陥りながらも、審判の勝ち名乗りを受けて決勝へと駒を進めて行くのだった。
○○○○●
三回戦も終了し、Aブロックの四回戦……準決勝が始まる。
歪に出来ているトーナメントの関係上、Aブロックのみ四回戦目が準決勝となる。
そして、Aブロックの準決勝から参戦するのは、前大会準優勝だった変態レズ勇者。
ワァァァァァッッッッ!
前大会の優勝者でもあった私の登場以上の声援を受け、ユニクスが闘技場へと入場して来た。
………。
いや、別に良いんだけどさ?
なんか、こうぅ……温度差と言うか?
どうして、ユニクスの時は物凄い歓声が上がるんだ?
そもそも、だな?
「キャーーーッッ! ユニクスさぁ〜ん! こっち向いて〜っ!」
……なんて感じで、あたかも『女子校に在籍する格好良い女子!』見たいな扱いを受けていたり、
「うぉぉっ! ユニクスさん! 今日も美人過ぎるぅぅぅぅっ!」
頭の血管が弾け飛ぶんじゃないのか? と、嘯きたくなる様な熱意を見せる男から『アイドルに盲目な熱烈ファン!』見たいな歓声を受けていたり、
「ユニクスたん……はぁはぁ……きょ、今日も可愛いね……はぁはぁ……ユニクスたんのフィギュア、出ないかな?……」
典型的なキモオタが、息を荒くして異様な目をしてユニクスを見ていたりと……まぁ、その様子は様々だ。
取り敢えず、キモオタは良いとしても、ユニクスの人気は地味に腹立たしい。
いや、だって……ユニクスだぞ?
隙あらば、私の身体を触ろうとしたり、下着を物色したり……つか、ふつーに盗んだりもする下着ドロだぞ?
なんで、こんなに人気があるんだよっ⁉︎
私は、今の闘技場にある熱気を見て、世の中の不条理を見た様な気がした。
何にせよ、闘技場の観戦席にてユニクスを応援している者達には、ユニクスの本性なんぞ分からないだろう。
……まぁ、な?
なんて言うか……世の中には、知らない方が幸せな事って、あるよな?
……そうして置こうか。
私は、深く考えない様にした。




