加護と剣聖杯と勇者様【4】
完全なエナジー切れだった。
元来であるのなら、昏倒してもおかしくない状態まで、正気を消費していたんじゃないのか?
少なからず、今のアリンはもう……立ち上がる事すら出来ない状態にまで陥っていた。
辛うじて意識は残っており、声を吐き出す程度の事は出来る見たいなのだが……。
「た、立てないお……はぁはぁ……そ、それに、息も苦しいお……」
完全に戦闘不能状態に陥っていた。
これが、超龍の呼吸法のリスクだ。
発動すれば、尋常ではない能力を得る事が出来、相手を圧倒する事が可能になる。
しかし、その反面……スキルの維持には膨大な正気を必要とし、よりレベルの高い状態になればなる程、とてつもないエナジーを必要とするのだ。
私的に言うのなら、レベル4の状態を数分は保っていられたアリンのエナジー量にビックリだ。
恐らく、これからエナジーの体内管理をしっかりとする事が可能になったのなら、スグにレベル5程度の状態を維持する事が可能になるだろう。
……要は、まだ効率良くエナジーを調整する事が出来なかったお陰で、私は救われたのだ。
きっと、純粋なエナジー量だけを見れば、私とアリンはそこまで大差はないだろう。
しかし、それでも私の方がより高レベルの補助スキルを維持する事が可能なのは、消費するエナジー量を最小限に抑える事が可能であったからだ。
まぁ、ここは水の精霊王での一件によって貰った加護が発端となっているので、私も自力ではない分、あまりアリンへと大手を振って言える様な立場ではないんだがな?
しかし、最近はエナジーをどうすれば効率良く使い熟す事が出来るのか?
そう言った、コントロール方法と言うか、コツの様な物を掴んだ。
この辺りは、私なりに色々と試行錯誤をした結果に生まれた物なので、私なりに行った努力の成果だと思っているぞ!
……と、自己満足トークはここまでにして。
「良く頑張ったな、アリン? まさか、ここまで頑張るとは思わなかったよ」
私は笑みのまま答えては、アリンに右手を差し伸べた。
「……ア、アリンは……まだ、負けてないお……はぁはぁ……」
しかし、アリンは私の右手を取ろうとはしない。
随分と、強情な真似をするな?
「アリンは……この戦いに勝って……か〜たまに言うんだお……『限定版の新・ハーピーちゃん人形を買って!』……って!」
「そう言う理由だったのかよっ!」
超絶真剣な顔になって叫んだアリンに、私は思わず『ガーンッ!』って顔になって叫び返してしまった!
きっと、アリン的にはレベル4を発動し……私に圧勝した状態で、高々と宣言するつもりだったのだろう。
『この勝負に勝ったら、か〜たまに新・ハーピーちゃんを買って貰うおっっ!』
……みたいな事を。
全く……アンタと言う子は……何処まで物欲に塗れた子になってしまったと言うの!
「だから……だから……アリンは負けないお!……はぁはぁ……アリンは、自分の力で、輝かしい未来を勝ち取るんだおっ!」
お前の輝かしい未来とやらは、限定版の人形にあると言うのか?
……はぁ。
やれやれ……だ。
「分かった、買ってやる……買ってやるから、今回の所は素直に認めろ」
私は呆れ半分のまま答える。
この調子だと、本気で死ぬまで戦いかねない。
たかが人形如きの為に命を懸けるんじゃないよ……と、母親ながらにぼやき文句の一つも言いたくなる所ではあるのだが、アリンにとっては命を懸けるに値するだけの価値があるのだろう。
……うむ。
私は、何処でアリンの教育を間違えてしまったと言うのだろうか?
「……ほ、本当だおっ! 後で『実は嘘』とか言ったら、アリンはか〜たまを一生『嘘つき』って呼ぶんだお⁉︎」
それはそれで、ハチャメチャに困るんだが。
まぁ……良い。
私だって、自分で言った事に責任を負う程度の気概は持っている。
「大丈夫だ! 大船に乗ったつもりでいろ! か〜たまに二言はない!」
「か、か〜たま!」
キッチリ、しっかりと断言までしてやった私を見て、アリンは瞳からポロポロと大粒の涙を流し始めた。
どうやら、大きく感涙していた模様だ。
……本当に大袈裟なヤツだな?
たかが人形に、そこまで泣くヤツがあるか。
そもそも、限定版とかあるんだな? ハーピーちゃん人形にも。
……ん? まて? 限定版だと?
そこまで考えた時……なんか、ビミョーに嫌な予感がした。
確か、プラムちゃん人形とか言うのも限定版で……しかも、無駄に高かったよな?
思った私は、右手を上に掲げる。
一見すると、何やらおかしなポーズを、無駄に格好付けて取っている様に見えるのだが……実際問題、変なポーズを取りたくて取っている訳ではないぞ?




