加護と剣聖杯と勇者様【2】
「……ともかく、次の対戦相手は私だ。これは試合なんだから、特に気兼ねなく普通にぶつかって来い」
「お! 分かったお! 日頃の恨みを晴らせば良いんだおっ!」
「お前は、私にどんな恨みがあると言うのだ?」
精一杯、愛情を注いで来たじゃないか!
「先週、クリスタル・華岳ちゃんを買ってくれなかったお! 先月はデラックス・ハーピーちゃんを買ってくれなかったお! 昨日はプラムちゃんのロゴが入ってるチョコすら買ってくれなかったんだおぉぉぉぉぉっ!」
全部、ウチに似た様なのがあるからではないか!
そして、チョコは無駄に毎日欲しがるから、虫歯になると思って昨日はダメと言っただけではないか!
「そう言う言い方をするんじゃないよ! それじゃ、まるで……私がケチみたいな言い方じゃないか!」
「まるでじゃないんだおぉぉっ! まんまケチんボなんだおぉぉぉぉっ!」
アリンは地団駄を思い切り踏みながらも、泣き叫んでいた。
本当……こう言う所は三歳児と言うか、なんと言うか。
「審判、初めてくれないか?」
面倒だから、私は近くで開始の合図を出そうと待機していた審判に向かって声を吐き出す。
こんなの構っていたら、またもやページが無駄に消費されてしまう。
「あ、はい……それでは、初めて下さい!」
微妙にグダグダながらも試合は開始された。
同時に、私は補助魔法と補助スキルを発動させる。
そんな私を見たアリンも、素早く補助スキルと補助魔法を発動させた。
発動された補助魔法と補助スキルは互いに一緒。
元来の補助魔法と言うのは、熟練度に合わせてレベルが上昇して行く物なのだが……アリンの場合は、最初からレベル99の補助魔法を発動する事が可能だったりもする……軽く卑怯だ。
よって、補助魔法の方が互いに同じ水準の物になるのはアリンも予測していたであろう。
しかし、補助スキルまで一緒だったのは、少しばかり意外だったらしい。
「……お?」
アリンが、超龍の呼吸法レベル3を発動させたと同時に、私もレベル3を発動させていた事を知って間もなく、キョトンとした顔になって私を見据えた。
「か〜たま、レベル3で良いお? 本当はもっと高いレベルに出来たおね?」
「これで良い。3でも十分勝てる」
私はニィ……と、笑みのまま答えた。
「……お? お〜?」
すると、アリンは少し考えた仕草をしてから、再び口を開いた。
「んと、んと、か〜たまは『レベル3しか出さない』お?」
「だから、そう言ってるだろう?」
アリンは、まだエナジー管理が上手に出来ないからな?
そこを加味するのであれば、レベル3を発動させている時点で、かなりのモンスターだと思う。
急上昇したエナジーを自分の中に止める事が出来ず、外に放出して衝撃波を撒き散らしている時点で、私的に言うと余計なエナジー消費をバンバン垂れ流している状態と言えるな?
今回は私が作り出した魔導防壁があるから、観客席に座って見ている連中は悠長にお菓子を食べたり、エールを飲んだりと……まぁ、本当に能天気な姿を晒していられるが、元来であるのならばアリンがレベル3を発動した時点で、ここら辺は地獄絵図も同然の有り様になっていたに違いない。
大地のエナジーと共鳴する事だけはどうにもならなかった為、地味に地鳴りだけはしている……ってのが現状であったが。
尤も、これだってある程度は緩和策を取っている。
もし、この緩和策を取っていなかったのなら……地面からマグマのタワーが出ていただろう。
……本当にアリンちゃんの力って滅茶苦茶だと思うよ。
そこはさて置き。
「じゃ、アリンは、レベル4になりゅ〜!」
アリンは笑みのまま答えた………ん? 何、レベル4っ⁉︎
ドンッッッッッ!
次の瞬間、アリンの周囲から想像を絶する衝撃波が発生し……って、うわぁぁぁぁっっ!
あ、危なっ⁉︎
危うく、吹き飛ばされて場外負けになる所だったぞっ!
凄まじい旋風と……アホみたいに上昇しているエナジー。
……あ、観客席の人間に逃げ初めたヤツが居るぞ……。
魔導防壁がある為、観客席に被害が生じる事は皆無ではあったのだが、アリンは露骨にエナジーを放出しているので、一部の人間からすれば絶対的な脅威を抱いたのかも知れない。
今のアリンは……並の悪魔王程度なら、片手で捻り潰せるだけの、凶悪なエナジーをとっても分かり易く放出しているのだから!
「んじゃ、行くお〜!」
え?……ふごわぁぁぁっ!
一瞬にして間合いを詰めて来たアリン。
速いなんて物じゃない!
完全に目で捉える事が出来なかった!
まるで、瞬間移動でもしているんじゃないのか?……って、勢いだっ!




