女神と加護と勇者様【20】
確か『破滅の女神』が、どうとか……なんか、そんな事を言っていた様な気がする。
………。
なんだろう?
もう、この時点で、私は嫌な予感しかしないのだが……?
そんな……何とも言えない気持ちになっている私がいた頃、選手として自分の控え室へと戻る関係で、こちらの方にやって来た女神様が、私の顔を軽く見据えた状態のまま、
「……あら? もしかして……ドーンテンと言う名前を持っていたりしますか?」
軽く小首を傾げた状態のまま、私へと尋ねて来た。
……えぇと?
「一応、ドーンテンと言うセカンド・ネームを持ってはおりますが……それが何か……?」
正直、嫌な予感しかしなかったので、しれっと『いいえ、違いますよ?』って感じの台詞を口にしようかと思っていた私ではあったのだが……やめた。
何となくではあったが、この女神様にその様な嘘を吐いた所で、すぐにバレてしまうと思ったからだ。
それに、選手の一人としてこの大会に登録されているのだから、私の名前にドーンテンの文字が存在している事なんて、スグに判明してしまう事でもあったからな。
「アリンも、アリン・ドーンテンって言うお!」
そこから、隣にいたアリンが『えっへん!』って、無駄に威張りながらも女神様に言っていた。
別に、ドーンテンと言う名前が威張る対象になるとは思えないのだが?
「……あら、あなたもそうなのね? ふふ……頼もしいわ? そう……ここにもドーンテンの名を持つ者がいたのね? ふふ……」
女神様は、ちょっと意味の分からない理由で喜んでいた。
一体……私達がドーンテンと言うセカンド・ネームを持っているからと言って、それが何だと言うのだろう?
サッパリ意味が分からない私がいたのだが……そこで直接女神様に尋ねると言う事はしなかった。
なんでか?……って?
絶対に、これ、聞いたら厄介事に巻き込まれるパターン!
もうね? なんてかね? 分かったんだよ? 私はっ!
こうも、毎回毎回……何だか良く分からない内に『世界を救って!』みたいな? ね? そ〜ゆ〜厄介な話に発展する様な、傍迷惑な揉め事に敏感な人間になってしまったんですよ、私はっ!
よって、ここで女神様に『ドーンテンと言う名前に、何か意味でもあるのですか?』って感じの質問なんぞしてしまった日には、間違いなく私にとって理不尽としか他に形容出来ない、ハチャメチャな問題に巻き込まれると、私は即座に予測する事が出来たんだよ!
思った私は、敢えて何も言わずに女神様の言葉を、
「良く分かりました。決勝は、このアリン・ドーンテンがあなたと対戦する事になるかも知れませんが、よろしくお願いします!」
「アリンなのっ⁉︎」
否定も肯定もせずにスルーして、アリンの肩をポンと叩きながら口を動かした。
そして、私の言葉を耳にしたアリンが『ガーンッッッ!』って顔をして、思い切り驚いていた。
仕方ないのだ……アリンよ。
私は、こんな化け物と戦う位なら……決勝への切符をお前に譲り、そのまま観戦席でルミやフラウ、ルゥ姫辺りと一緒にポップコーン食べながら観戦していたいのだ!
「ア、アリンも嫌だお? この女神しゃま……どう考えてもアリンが勝てる相手じゃないお? ボコボコにされちゃうお? か〜たまは娘が痛い思いをしても良いんだおぉぉぉっっ⁉︎」
アリンは、かなり切実な目になって私へと訴え掛けて来た。
母親として、ちょっとだけ良心の呵責を感じた。
「……大丈夫よ、アリンちゃん? 私は『決勝には出ない』から。ね?」
………?
それは、どう言う……?
何とも不思議な事を言う女神様がいる中、
「行っちゃったお〜……変な人だったお〜」
そうと述べたアリンの言葉通り、彼女は神々しい笑みを振りまいたまま、私達の前から立ち去った。
女神・イシュタル。
あなた様は……一体、何を考えているんですか……?
どうにも解けない謎が、私の中で発生し……ちょっとしたモヤモヤへと変化して行った。
そんな時だった。
『あなた達、ドーンテン一族は特殊です。普通の人間の思考が止まった時……不可能と思った所……そこが、あなた達にとってのスタート地点になるのですから』
鈴の音を彷彿させる、澄んだ声が聞こえた。
「……お? なんか、綺麗なお姉さんの声がしたお?」
そして、それはアリンの耳にも届いていた模様だ。
否、もしかしたら……耳ではなく、直接頭の中に響いていた言葉なのかも知れない。
うぅむ……。
益々、謎が深まってしまった。
鈴の音を彷彿させる、綺麗な声を吐き出していたのは……間違いなく女神様なのだろう。
しかし……否、だからこそ謎なのだ。
その女神様は、言うのだ。
普通の人間が思考を停止した所から……あなた達はスタートする、と。




