女神と加護と勇者様【19】
……挙句、女神様の実力を本当の実力だと勘違いされて、自分でも良く分からない理由から、世界各国のスカウトマンに勧誘されてしまったりもするんじゃないのだろうか?
まぁ、拝借している本人がお調子者ではない事を祈るしかないな。
「……それにしても、フェル君でしたか? あなたは、もはや人間としての能力を大幅に超過しておりますね? 人間の世界はおろか天界にすらあなた程の実力者が何人いるかどうか……」
女神様は、ニコニコ笑顔のままチャンピオンに答えて行く。
どうでも良いけど、本気で自分の正体を隠す気がないだろ? この女神様。
「何の話をしているのかは分かりませんが……褒めて頂いている様で……ありがとうございます」
チャンピオンは、女神様の褒め言葉を素直に受け止める形で、バカ丁寧にお辞儀をしていた。
まぁ、本当にチャンピオンは礼節を重んじる人間なので、相手が誰であろうと礼儀を持って受け答えをする。
そこらを考えると、本当に男前なイケメンだった。
ぐむぅ……どうしよ?
私、チャンピオンに告られてるんだよなぁ……。
今後、チャンピオン以上の男が出て来るとも限らないし……これで手を打っても良いんじゃないだろうか?
だけど、そうなったら……クラスの女子共、特にフラウ辺りから陰湿なイジメを受けそうで怖いな。
ま、フラウがやったら問答無用で爆破するだけなのだが。
……閑話休題。
「私は悟りました。相手があなたであれば『本気を出しても死なない』と」
女神様はニコッ! っと笑みのまま答えると、
ゴォォォッッ!
チャンピオンの腹部を思い切り殴っていた。
……えぇぇぇ。
私はドン引き状態だ。
今のチャンピオンって……少し前の私を倒せるだけの実力があったのに。
補助魔法と補助スキルでレベル6になって、漸くドッコイとか言うレベルだったのに。
しかし、そんなチャンピオンを……一撃で沈めていた。
「……かは……っ!」
腹部を殴られたチャンピオンは、そのまま卒倒する形で前にバッタリと倒れる。
間もなく意識が飛んでいた事が判明し……試合が終了する。
「勝者! 匿名希望!」
勝ち名乗りを受けた女神様は、
「あはっ☆ 勝ちました〜!」
にこやかに笑いながらも、右手を上げていた。
間もなく、周囲にいる観客へと手を振りながらも退場して行く。
「……か〜たまでも、あの人に勝てる?」
その時、ブルブルと震えながらも尋ねるアリンの姿が。
一応、私と一緒に隣で観戦していたアリンではあったのだが、終始無言だった。
そして、現在は恐怖で顔を痙攣らせた状態で、私へと尋ねて来た。
正直に言おう。
割と本気で無理だと思う!
強さ的に言うと、伝承の道化師とドッコイの力があるんじゃないのか?
私も、かなり強くはなったと思うし……今なら、少しは道化師にダメージを与える事が出来るんじゃないのかなぁ?……と予測する事は出来るのだが、対等なのかと言われたのなら、秒を必要とせずに『それはない!』と断言する事が出来てしまう。
どうやら、暫くの間は、相手の実力に合わせた動きをしてくれる模様なので、絵面的には、互角の攻防戦をする事が可能なのかも知れないが……相手が本気になった瞬間に、私の敗北は確定してしまうんじゃないだろうか……?
全く……世の中ってのは広いよなぁ。
私も、人間の中では最強クラスであると断言出来るけど……神様を相手にするとかになれば、全くの無力に限りなく近いんじゃないのかなぁ……。
まぁ、神様に逆らった事なんてないから、実際の所は分からないのだが。
何にせよ、だ。
「勝てるかどうかは、やって見ないと分からないが……恐らく、無理だと思う」
私は素直にアリンへと答えた。
「……っ⁉︎」
アリンは大きく目を見開く。
そんなにショックだったのだろうか?
「アリンは驚いたお……この世界に、か〜たまよりつおい人が居たなんて……か〜たまは世界の誰よりもつおい、魔人王だと思ってたんだお〜……」
「私が魔人王だなんて、流石にそこまでおこがましい事を考えてないぞ? アリン? か〜たまはな? 実は可憐かつ……かよわい乙女なのだからな?」
「それこそ、おこがましい気がするお?」
「なんか言ったか?」
私は右手を向け、額に怒りマークを付けたまま尋ねた。
「か〜たまは乙女なんだお!」
アリンは即座に叫んだ。
うむ! 分かっているではないか!
「だけど……本当に、あの人にはビックリするんだお? シズしゃんも言ってたけど、女神しゃまなんだお?」
「どうやらその様だ」
そして、その女神様が天啓を与えた勇者ユニクスに用事があって、こんな所まで御足労しているらしい。
……うむぅ。
そう言えば、あの女神様って……ユニクスに何を頼むつもりだったのだろうか?




