女神と加護と勇者様【17】
勝つ事ばかりが全てではない。
負ける事もまた、人間を強くして行く為に必要な……一つの勉強なのだ。
きっと、この敗戦によってフラウはより自分を強くする為に切磋琢磨して行く事になるだろう。
今感じた悔しさを次に活かして行くと思うんだ。
そう考えるのであれば、今回の敗北は……フラウにとって大きなプラスでもあり、どんな豪奢な宝物よりも貴重かつ大切な経験をしたのではないか? そう思えてならない。
その後、選手控え室で号泣していたフラウを私はひたすらひたすら抱きしめ、気が済むまで泣かせる手伝いをするのであった。
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剣聖杯も後半戦。
お昼休憩が入り……いつの間にか実況席まで復活した事で、
『さぁ、これより後半戦! 三回戦のスタートです!』
私に爆破された事で、遠くに飛ばされていた筈のインさんと、
『う! 今度は秘密兵器として湯呑みを持って来たんだ! うっ!』
意味が分からないと言うか、まんま意味不明な台詞を真剣な声音で放つシズの姿があった。
ちなみに、シズは湯呑みを持った状態でお茶を飲むと言うスタイルを取った時に、剣聖の奥義を発動する事が出来たりもする。
まぁ、きっと……湯呑みは関係ないと言うか、その気になれば湯呑みにお茶を入れて飲まなくても発動する事が可能だとは思うのだが、一応はその形を取っていないと発動する事が出来ないらしい。
まぁ、そこはともかく。
シズが発動する剣聖の奥義……それは、剣聖の護りと言うスキルだ。
このスキルが発動すると、ありとあらゆる物理・魔導・特殊な攻撃の全てをシャットアウトする事が可能になると言う、驚異的な防御スキルだ。
しかし、このスキルが発動してしまうと、発動した本人の行動力が大幅に制限されてしまう為、シズ本人は事実上何も出来なくなってしまう。
よって、この湯呑みが必要らしい。
何も出来ないから暇だし、ただ座っているだけになってしまうので、湯呑みにお茶を入れてないと、眠くなって寝てしまうからだ。
……つか、寝るなよ!
余談だが、寝ると剣聖の護りは自動的に解除されてしまうらしい。
だから寝るんじゃないよ! と、私は声を大にして叫んでやりたい所だ!
……と、まぁ。
そんな訳で、シズが持っている湯呑みは『これでリダが超炎熱爆破魔法を使っても、私は痛くも痒くもありませんよ?』と言う自己アピールをして見せたのである。
意味が分からなかったら、何がしたいのかすら良く分からない、不明瞭なボケネタにしか見えないのだが、意味がわかれば、ツッコミ程度の事は出来る代物……と、こうなる訳だな?
どちらにせよ、ふざけ倒している反面、真面目に私の爆破を防いで来るつもりではある模様なので、地味に腹立たしくはある。
くそ……剣聖の護りをすり抜ける爆破法とかないだろうか……?
ふと、こんな事を真剣に考える私がいる中、三回戦がスタートして行った。
三回戦第一試合は、チャンピオンVS匿名希望(女神)だ。
これまでチャンピオンは、偶然にも実力者と呼べるだけの相手と対戦する事はなかった。
ある意味で、くじ運にも恵まれていると形容出来るな?
しかしながら、今回の対戦相手は……あのフラウをも実力で粉砕して来た匿名希望の女神様!
良い加減、匿名の部分を無くしても良いんじゃないのかな?……と言うか、完全に『さり気なさ』と言う言葉を、一回辞書で引いてから参戦してくれないかな? と、マジで思えてしまう様な存在だ。
現状で分かっている事は、魔導的な物でフラウを圧倒した……と言う事だ。
そうなると、匿名希望の女神様は、魔導師タイプの存在なのか?
私的には、魔導師の類いであっても全く驚かないし……むしろ、それ以外には見えないレベルでもあった。
……が。
三回戦に進出し、チャンピオンと対戦した彼女を見て……私はまたもや考えを改めなければならない事に気付かされた。
「それでは初めて下さい」
……と、審判の掛け声を受けた瞬間、二人の姿が消えた。
厳密に言うと、動きが早過ぎて消えた様に見えたのだ。
しかも、それだけではない。
ドォォォォォォンッッッ!
ドォォォォォォンッッッ!
ドォォォォォォンッッッ!
パワーも桁違いだ!
……これな? 私が試合会場に予め設置していた魔導防壁があったから、観客席で観戦している人に被害が一切出て居ないんだけど……もし、この魔導防壁がなかったのなら、間違いなく死人が出る級の衝撃波が辺り一面に撒き散らされていると思うぞ?
他の面々は知らないが、私の目で確認する限り、チャンピオンと匿名希望の女神様は、互いに拳と拳のぶつかり合いをしている『だけ』なのだ。
一部を抜粋して述べると、チャンピオンがジャブからのアッパーを入れた時、女神様がアッパーを右手で払い除けていた。
女神様の顎に当たる直前の所で、横から払い除ける形で右手をアッパー目掛けてぶつけていたのだ。
この瞬間に『ドォォォォォォンッッッ!』って衝撃波が出ている。
互いの動きが音速を超えている上に、拳と拳がぶつかった時の衝突エネルギーが莫大過ぎて、衝撃波が発生していたのである。
……なんなんだよ、この試合は……?




