女神と加護と勇者様【16】
「………ッッ⁉︎」
ドォォォォォォォォンッッッ!
尋常ではない炎風と同時に、強烈な爆発が発生する。
本来、カウンターで攻撃する筈だった、匿名希望の女神様が『キャンセル中だった』魔導式すら、最後まで発動に持って行けない程に隙のない……まさに間髪入れる事なく二発目を発動させていたフラウ。
ヤバイぞ……私は少し、フラウを侮っていた。
「連続魔法かよ……」
私は誰に言う訳でもなく呟いた。
なんて事はない。
フラウは、最初からこっちを本命にする形で魔導式を組み立てていたのだ。
連続魔法と言う形で。
連続魔法は、前の話でも何回か出ているので、知っている人は知っているかも知れないが……要は、頭の中でそれぞれ別の魔導式を『同時に紡ぐ』事で、発生させる高等技術だ。
消費魔力は倍になるし、術者の技術能力によっては、単独で発動させる時よりも一発の威力が半減してしまったりと、それなりのデメリットはある物の……習得する事が出来ればかなりの有効性を持っている。
……そうか。
この時、私は気付いたのだ。
フラウが、わざわざ『これから強い魔法を発動しますよ』と、馬鹿正直に真っ正面から炎神砲撃魔法を発動させたのは、こっちの魔法に注意を引きつける為のフェイントだったのだ。
最初から、避けられる……ないし、魔導防壁でガードをされたとしても、次のターンで相手が攻撃態勢に入った時、カウンターで即座に二撃目の魔法を打ちかましてやろうとしていたのだ。
そして、その二撃目こそが、フラウにとっての本命攻撃だった!
やってくれる。
しかも、炎神砲撃魔法と超炎熱爆破魔法を同時に紡ぐとか……流石は上位魔導師。
おおよそ、常人では不可能に近いぞ?
抽象的に言うのなら、複雑な計算式を同時に解いている様な物だ。
関数と確率計算を同時に『頭の中だけ』で暗算し、それを同時に答えている様な芸当をして来た訳となる。
マジでやっている事が人間技とは思えない。
しかも、短時間で戦略を練った上で……だ。
……そして。
「この学園の生徒さん達は何者なのですか? 世界にいる、数多の冒険者達であっても、あなた程の実力を持つ魔導師が一体どの程度いらっしゃるか……?」
フラウの本命とも言える超炎熱爆破魔法を……アッサリ防いで来た匿名希望(女神)に、私は思わず衝撃を隠せなかった。
「……う、嘘でしょ?」
これには、フラウも愕然となってしまう。
……直撃だった。
目で見る限り、匿名希望の女神様は、普通に攻撃する魔法を紡いでいたし、防御態勢になんか全く行う素振りすら見せていなかった。
つまり、ノーガードの状態で超炎熱爆破魔法を受けた事になる。
しかし……どうだろう?
匿名希望の女神様は、全くダメージを受けた様子がない。
果たして。
「一応の予測と言うか……ほぼ『そうして来る』とは、思っておりました。そこで、私は二撃目の攻撃魔法が発動された瞬間に『キャンセル中だった魔導防壁』を発動させていたのですが……まさか、これ程の威力があるなんて……ねぇ?」
匿名希望の女神様は笑みのまま言う。
その表情には未だ余裕が残っていた。
遠回しに『まだ本気は出してませんよ』と言う感じの態度を出している。
「………」
フラウは絶句した。
少し前に見せた、ムッ! っとした顔とは違い……今のフラウが見せた表情は絶望だった。
「……参りました」
フラウは呟く。
顔を下に向け、肩を大きく落として……力無く。
………。
この瞬間、フラウは悟ったのだろう。
匿名希望(女神)の実力を。
そして、強く思ったに違いない。
悔しい!……と!
フラウは秀才で。
努力は自分を裏切らないと、信じていて。
実際に、あらゆる天才肌をも撃破出来るだけの実力を誇示していた。
……だが。
「……完敗です。私も修行が足りないなぁ……」
答えたフラウはやんわりと笑みを作りながらも、匿名希望の女神様に答えた。
全てに置いてフラウは彼女に負けていた。
魔力も。
戦略も。
技術も。
その事実を知った時……フラウは素直に彼女へと負けを認めた。
同時に知るのだ。
己の無力を……。
本当は我慢していたのかも知れないが……悔しさが込み上げてしまったのか?
笑みを見せていたフラウの瞳から、一筋の涙が流れてしまう。
……フラウ。
お前は頑張った。
そして、努力も一杯した。
精一杯頑張り……負けて涙が出る位、本気で戦ったフラウ。
私は言いたい。
負けて悔しいと、涙が出てしまう様な本気の戦いを、人は何度経験出来るだろう?……と。
負けても『頑張った!』で終わり、それ以上の感情が生まれない敗北なら、きっと何度か経験をした人間もいると思う。
それはそれで、一つの経験だと思うし、そこから学べる何かだってあると思う。
けれど、そうじゃない。
泣ける程、本気になって一つの物に打ち込める……まさに普通ではない熱意を燃やした事が、果たして人生の内にあるのか?
きっと、あったとしても、片手で数える程度なんじゃないかと思う。
つまり……貴重な経験なのだ。




