女神と加護と勇者様【11】
「………見せてあげる……私の『本気』を」
ルミは妖艶に笑みを浮かべて呟く。
ゴゴゴゴゴゴッッ……ッッ!
間もなく、周囲に地鳴りが発生した。
ルミの中に生まれた強力な魔力が地面の中にあるエナジーとの共鳴を初めていた模様だ。
……い、いつの間に、ルミはここまでの魔力を……っ!
私は愕然となる。
魔力を増強させる補助魔法は確かにあるが……一般的には余り使われない。
何故かと言うと? 魔力を増幅させたいのであれば、発動対象となる魔法に対して『増幅しなさい!』と言う魔導式を、最初から組み込む形を取るのが一般的なのだ。
一例として火炎魔法を強化発動する予定だった……としよう?
この時、補助魔法を発動させてワンクッション置くのと、魔力を増幅させる魔導式を魔法の中に組み込んだ上で、ダイレクトに火炎魔法を発動させるのとでは、どっちが早いか?
答えは、言うまでもないな?
ダイレクトに発動させた方が圧倒的に早い。
……よって、魔法は魔導式をあれこれと改良する事で、魔法の威力を上昇させる仕組みになっている。
魔法に上位魔法が存在しているのは、ここらにも理由があるな?
要は、基本魔法を色々と改造し、魔導式こそ煩雑となる為、発動難度こそ高くなってしまうが……デメリットを補って余りある程、魔力にブーストを掛け、威力を飛躍的に上昇させた改良バージョンが、上位魔導となる。
これらの関係もあり、自分の魔力を上げる補助魔法……と言うのは、一般的に使われる事はない。
だが、しかし。
そう言った補助魔法が存在しないのか? と言うのなら、それはまた別の話になる。
なんらかの理由から、強力な魔力を必要になった時……瞬発的にではあるのだが、体内にある魔力を普段以上に引き出す事が可能になるのだ。
もちろん、こんな事をすれば体内の消費魔力は普段とは比較にならないまでに高くなる。
そして、反動からやって来る疲労感も……かなりの物だ。
だが、それでもルミは選んだのだ!
「痛いのは嫌!」
……と、言う理由で。
……もうね、ここまで来るとルミのヘタレた性質も、ある種の執念と言うか、己を成長させる為の種になっていると言うか。
常識の上で行くのであれば、単なる腰抜けの思考でしかないんだけど、ルミの場合はヘタレ性質で自分の能力を向上させているのだから……私も複雑だ。
思わず、目を見張るまでに魔力を上昇させて行くルミがいる中、
「……ルミちゃんの魔力が……びっくりする位、上がってるお……こ、こんな魔法が……あったんだお」
アリンが本気でビビっていた。
多分、ルミの持っていた魔力の増幅速度の速さに驚いているのだろう。
きっと、アリンには『純粋な魔力を増幅するだけの魔法』と言う発想すらなかったかも知れない。
理由はさっきも言った通りで……魔導的な常識を言うのなら、魔力をブーストする魔導式を魔法の中に組み込む方が一般的……いや、常識であったからだ。
それだけに、アリンの中では常識の枠を超えた、実に斬新な光景に見えたのかも知れない。
同時にそれは、未知との遭遇であり……恐怖でもある。
人間、知らない事に関しては、大きな恐怖を抱く物だ。
それが分からない……どんな結果になるのか不明……そう言った、不明瞭かつ不確実性の高い物に対して、強い不安と疑念に囚われてしまう。
それは、人間が人間である以上……仕方のない物だ。
故に、アリンは規格外とも言えるルミの特殊な魔法に、ただならぬ恐怖を抱いたのだ。
……が、しかし。
「……ま、良いお〜」
ドォォォォォォォォンッッッ!
間もなく向けていた右手から爆破魔法を発動させていた。
確かにアリンは驚いたし、焦りもした。
……したんだけど、だ?
それでも、アリンの感覚からするのなら、まだまだ大した魔力でもなかったのだ。
果たして。
「……ふ、ふふふ」
爆発により、もうもうと立ち込める砂煙の中、ルミは不敵な笑い声を上げていた。
……?
どう言う事だ?
砂煙が視界を遮っている為、ルミの姿はシルエットしか見る事が出来ない。
しかし、強く笑っている様に見える……いや、聞こえて来た声だけを耳にすれば、間違いなく笑っていた。
そこから数秒後……立ちこもる砂煙が消えて行き、ルミの姿がクッキリと見えた時、
「計算通りだよ……ふ、ふふふ……」
アリンの爆破魔法によって見事にボロボロとなっていたルミが、何故か勝ち誇った顔をしたまま、含み笑いを見せてから、
ばたーんっっ!
バッタリ倒れた。
……何がしたかったんだよ? お前は……?
ハッキリ言って解せない……てか、意味不明過ぎた。




