女神と加護と勇者様【10】
「な、何が起こったのっ⁉︎」
ポップコーンを片手に握った状態のままだったルミは、何が起こったのか分からないまま、ひたすら周囲を見回しながらふためいていた。
そうな? 私も立場が同じなら、やっぱり同じ様な勢いで驚いていたかも知れないぞ。
「お? 空間転移魔法で、こっちに移動させたお?」
程なくして、顔で当然と言わんばかりの口調でアリンがルミへと言ってのけた。
………。
やっぱりアリンは空間転移魔法を完成させていたのか……。
まるで空気を吸うかの様なナチュラルさで、しれっと簡単にやっていたのを見る限り……既にアリンは空間転移魔法を自由に操る事が可能になっているのだろう。
私も知らない内に、差したる苦労をする事もなく……だ!
本当に……これだから……天才ってのは……。
自分の娘である筈だと言うのに、才能の差と言う物をまざまざと見せ付けられた……そんな気持ちになっている私がいた頃、
「ルミちゃん。アリンもポップコーンが食べたいお!」
ルミの右手に持っているポップコーンへと熱い視線を注ぐアリンの姿があった。
……これこれ、アリンちゃんや。
そんな、意地汚い事をするんじゃないよ……ポップコーンぐらい、後でか〜たまが買ってあげるから。
なんだかんだで三歳児をしているアリンちゃん。
やっぱり、まだまだ色気よりも食い気なのだ。
「……えぇと……うん、全部あげるから……その、お手柔らかに」
他方のルミは、地味に顔色を青くさせた状態のまま答えて、右手のポップコーンをアリンに渡す。
「お〜! やった〜! ありがとうだお、ルミちゃん! お手柔らかに爆破しとくんだお!」
「出来れば爆破はやめて!」
ルミからポップコーンを手渡されたアリンは、ニコニコ笑顔で声を返すと……直後に、切実な顔になったルミが思い切り叫び声を返していた。
「……お? アリンはドーンテン一族だお? なんでも爆破で解決するんだお?」
その設定は、いつまで引っ張るつもりでいるんですかねぇ……?
「そこはもちろん知ってるよ! 周知の事実と言うか……常識だしさ?」
いつからそんな常識が生まれたと言うのかな?
地味に意味不明な会話が生まれている中、
「……あのぅ……そろそろ、初めても良いですか?」
審判の人が、地味にイライラした顔のまま、アリンとルミの二人へと言っていた。
……まぁ、そうなるよな?
私が審判であっても、やっぱり同じ事を言うに違いない。
「お? もしゃ……もしゃ……ゴックン! 分かったお! ポップコーンがまだ少し残っているけど、食べながらでも良いなら、やるお!」
これこれ、アリンちゃんや……。
ポップコーンを食べながら相手をするなんて、行儀が悪い上に失礼でしょっ⁉︎
……全く。
アリンには、もう少し常識と言う物を教えてやらないとなぁ……。
「私はそれで構いません! 良いハンデになると思いますし!」
他方のルミは、瞳をキュピ〜ンッッ☆ っと輝かせ、更にグッジョブまで力強く見せていた。
まるで、ルミにハンデが加わり『その程度のハンデなら、問題ないですよ?』って感じの事を審判に言っているかの様な態度だ。
実際にハンデが加わるのはアリンの方なんだけどな!
卑屈な台詞まで爽やかに堂々と言うルミの精神力には驚いてしまうぞ……割りと本気で。
「……では、試合を開始して下さい」
二人の話を耳にした審判は、地味に投げやりな口調で声を吐き出した。
きっと、どうでも良くなっていたのだろう。
少なからず、そんな顔をしていた。
「じゃあ、やるお〜?」
試合が開始され、アリンは右手をルミに向ける。
「え? いきなりそれなのっ⁉︎」
直後、ルミが目を大きく見開いて『あわわわ……』と、パニック状態になりながら叫んだ。
「………お? アリンは、ドーンテン一族だお? もう、爆破で決まりだお?」
もう、ドーンテン一族は爆破民族で決まりなのね……。
この間違った観念を持ったまま大人になってしまったら、絶対にアリンちゃんはダメな大人になってしまう気がしてならないぞ……。
由々しき問題だと、母親なりに不安感が募って仕方ない中、
「……くっ! やはりドーンテン一族は悪魔の一族だよっ! なんとしてでも、爆破は阻止してみせる……だって痛いから!」
ルミが、世界を救うヒーローみたいな表情でヘタレた台詞を叫んでいた。
きっと、ルミが正真正銘、本物のヒーローだったとしても……救われた人達は素直にお礼を言う事が出来ないんじゃないのかなぁ……。
真剣な顔付きのままヘタレた台詞を口走っていたルミは、全力で魔導式を紡ぎ出した。
……おや?
ルミの魔力が……。
なんだろう? これは、増幅系の魔法だろうか?
ルミの魔力がグングン上昇して行く!




