リダさん、死闘の果てに!【16】
「もう、酷いなぁ? 私が病院に行く必要ないでしょう? そもそも、何処が悪くて私が病院に行かないといけないの?」
「決まってるだろう? 頭が悪いんだ」
「本当に酷いっ!」
ルミはガーンッて顔になった。
「それより、ルミ? 闘技場はどうなったんだ? 結構スゴい事になってなかったか?」
話題のベクトルを強制的に変える形で私が言うと、ルミが思い出したかの様に口を開いた。
「スゴいと言うか、酷いね。さっきのリダの台詞ぐらいに!」
しかし、ルミは軽く話題のベクトルを戻し気味に答えて来た。
軽く根に持ってるらしい。
ちょっとした冗談だと言うのに。
話を聞く限りだと、ほぼ全壊だったそうだ。
現在は補修工事の為、学園の生徒すらも闘技場に入る事が出来ないらしい。
まぁ......な。
かなり激しいと言うか、本当ならもっと広い場所じゃないと、周囲に損害が生まれてしまう様な攻防戦ではあった。
「ああ、そうだ」
おおまかではあるのだが、私が病院で眠っていた時の話をしていたルミは、ふと思い出した感じで、
「そう言えばさ? なんか、水晶球? そんなのをリダに渡してほしいって」
こうと答え、一旦自室に戻った後に私の部屋に戻って来た。
そして、右手に持っていた水晶球を私に渡して来た。
「......何だこれは?」
私は不思議そうな顔になって小首を傾げた。
「私にも分かんない。何か、工事関係の人が拾った見たいなんだけど、水晶球を拾った人が言うのには、触ってすぐに水晶球から『リダに渡せ』って、不気味な声がしたんだってさ」
何だそれは?
もしかして、これは呪いの水晶球なのか?
「んで、気味悪がられながら、リダに渡そうとしてたんだけど、入院してたからさ? 私が預かってた訳だよ?」
「なるほど」
一応の経緯は分かった。
......けど、これが何かまでは、誰も分からないと言う事か。
取り敢えず受けとる。
......特に呪いはなし、と。
ポウゥ......
「うわっ!」
いきなり水晶が光った。
突飛でもなかったから、驚いた拍子に水晶を落としそうになる。
あ、あぶな......。
「ふぇ......何これ? やっぱり、リダに呪いでも掛けるつもりだったの?」
「いや、違うと思う。呪いの魔力とかなかったし」
「じゃあ、なんだろうね? 呪い以外でリダを殺す方法が思い付かないなぁ......?」
「って、なんでお前は私を殺したいんだよっ!」
さっきも軽い感じだったし!
本当は、私に死んで欲しいんじゃないだろうな! このアホ姫はっ!
心の中でひとしきり、馬鹿姫に悪態を吐いてた所で、淡い輝きを放っていた水晶から、
ポンッ!
小さな小爆発が起きると同時に、封筒と指輪の様な物が水晶球から吐き出された。
「真面目に......なんだこれは?」
「さぁ? ただ、リダに危害がないのが、ちょっと残念」
「どこまで私を殺したいんだ、お前はっ!」
本気でがっかりしてたルミに、私は大声を張り上げつつ、吐き出された封筒と指輪をキャッチした。
封筒は、普通に手紙かな?
「どれどれ......?」
どうやら、私宛だったので中身を見る。
水晶球と指輪は、取り敢えず机に置いた。
「......っ!」
何気なく手紙を読んで......言葉を失った。
手紙を書いた主は、アインだった。
内容は、実に簡素な物だった。
封筒と一緒に水晶球の中へ入れた指輪の説明。
説明の通りなら、着けるだけで魔力が大きく増幅されるアクセらしい。
これは、魔法が苦手な私がいた事を知って、魔力増幅のアクセを用意してくれたらしい。
全く......お節介も甚だしいよ。
嬉しいけど、さ?
そして、佐々木が狙っている事を、ここでも軽く綴っていた。
多分......いや、間違いない。
私はまだ、この学園にいた方が良い。
むしろ、協会本部にいた方が危険だと言う事をアインは私に教えてくれた。
この言葉は信じるに値すると、私は確信している。
何故かって?
「......? リダ?」
そこまで手紙を読んだ私を見て、ルミが不思議そうな顔になっていた。
理由は簡単だった。
私も無意識に、涙を流していたんだ。
最後に、短く......アインは私にこう書いて、手紙を締め括った。
俺は三千世界の何処かに飛ばされるだろう。
けれど、きっと......俺はお前に『おかえり』と言われる為に、また巡り逢う。
死ぬなとは言わない。
だが、約束して欲しい。
お前は、絶対の絶対に幸せになってくれ。
そして、願わくば『ただいま』を俺に言わせて欲しい。
じゃあ、行って来る。
「.........」
私は思わず無言になった。
感情が溢れ出て......言葉が詰まって、出て来なくなってた。
アイツは、最後の最後になっても、さよならなんて言わなかった。
俺は、ちょっと旅に出るだけだ。
それだけだと、最後の強がりを私に綴っていた。
こんな馬鹿みたいな手紙を書くヤツだから......私は信用出来るって確信した。
馬鹿かもしれないけど、意味のない強がりまで最後に見せてるけど、私にはとってもとっても格好良い男に見えた。
本当に、ありがとう。




