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女神と加護と勇者様【6】

 ……まぁ、ルミの事は取り敢えず置いておこうか。


「私はフラウが勝つと信じたいです。子供時代から、まるで実の妹であるかの如く、丹精に感情を込めてイジメにイジメ倒したフラウの底力は、私が一番良く知っているつもりなので」


 ユニクスは真剣な眼差しを私に向け、熱意さえ感じる言霊を私に吐き出して来た。

 雰囲気と良い、口調と良い……何やら美談風味の空気が出来上がっている様な感じではあったのだが、ユニクスの台詞を聞いている以上、美談とは真逆な台詞をしれっと言っている様にしか聞こえなかった。


 実際嘘ではないのだろう。


 今では、フラウにとって良いお姉ちゃん的な立ち位置でもあるユニクスではあるのだが……かつては悪魔の様な最低女であったからだ。

 現に、悪魔転生から人間になっていた上に、前世の記憶まで持ち合わせていたユニクスは、傲慢と高慢の二つを掛け合わせたかの様な高飛車女でもあった。


 それだけに、ユニクスのセリフに間違いはないのだが、


「……お前、もう少し言葉を選ぶとか言う意思はないのか?」


「ありませんよ? 私は私です。過去にあった事実を隠すつもりはありませんから」


 ユニクスはニッコリと笑みのまま答える。

 これまた正直な台詞なのは認めるけど……やっぱり物事にはオブラートが必要になって来る場合だってあると思うぞ?


 そんな……歯に衣を着せぬ物言いだったユニクスは、


「傍若無人な自分のかつてがあったからこその自分です。それが間違いであると気付いた現在では、未来にその様な行為を絶対に行ってはならないと言ういましめでもあります。だから、私は決して隠しませんよ? 己への反省を兼ねておりますからね?」


 再びニッコリと笑みのまま、私に捕捉する形で口を開いた。


 ……なるほど、な。


「まぁ、そう言う心構えがあるのなら、それ以上の事は言わないよ」


 私は妥協混じり……ではあるが、一応の納得を示す形で声を返した。


 過去に犯した過失は、どんなに未来で頑張っても、その事実を消す事は出来ない。

 故に……否、だからこそ、未来を頑張るのだ。


 自分の失敗を二度と起こさない為に。


「今のフラウは、魔導的な訓練の他に、肉弾戦にも精通する特訓もしております」


 ……へ?


 真剣な顔になって言うユニクスに、私はちょっとだけポカンとなってしまった。

 そんな話は全く聞いていない。

 クラスメートだと言うのに……だ?


「嘘だろ?」


「いいえ、事実です……何故なら、その特訓相手が私でしたからね?」


 ……っ!


 にこやかに語るユニクスの言葉を耳にして、私は二度驚いた。


 もし、この話が本当であるのなら、フラウは魔導師である上に、一定の武術まで習得しようと努力している模様だ。


「無手による攻防は、まだまだひよっこで……私も一日に一回はフラウを泣かす程度の感覚で練習相手を務めてまいりました」


 そして、お前はコロコロと明るい笑顔のまま、酷い台詞を言うんじゃないよ!


 ちょっとツッコミを入れてやりたくなる様な態度をしれっと見せるユニクスではあったが、ここで一気に表情を引き締めてから口を開いた。


「フラウは天才ですよ?……私が教えた事を『その場で習得』してしまいます。冗談みたいなスピードで、私が教えた事を次々と吸収して行くのです」


「……そうか」


 ユニクスの言葉に、私は短く頷きを返した。


 ……と、そこで試合の方が開始される。


「それでは開始して下さい!」


 審判の合図と共に、試合が開始された。


 同時に、メイちゃんが一気に間合いを詰める為に突進して来る。


 ……まぁ、接近戦に超特化しているメイちゃんであるのなら、この行動は予想の範疇内であろう。


 かく言うフラウも、これはしっかり読んでいた。

 突進して来たメイちゃんと同時に、フラウは右側に避けていた。


 厳密に言うと、突進して来る事を予め予測した上で『間合いを取っていた』のだ。


 これにより、メイちゃんからかわし、突進の余剰によって前に突き進むメイちゃんと、自分で右側へと飛んだ事で生じた距離が加算され、攻撃の間合いは軽く数メートルまで開いた。


 ここまで来れば、もうフラウの間合いだ。


 この距離を保つ事が出来たのなら、間違いなくフラウが一方的に攻撃魔法をメイちゃんにぶつけるだけの戦いになってしまうだろう。


 ……このままであれば、だが。


 ダッッ!


 フラウが間合いを広げたと同時に、頭の中で魔導式を紡ぎ始めた直後、メイちゃんは再び地を蹴った。


 ……速いなっ!


 しかも、ブレーキ的な物は一切なく、ダイレクトに地を蹴って身体を反転させていた。


 余計な動きが一切なく、一瞬にしてフラウの居る方へと再び跳躍する事で、フラウの魔法が発動するよりも早く間合いを縮めて行く。


 ……と、思われた、瞬間!


 炎神アグニランス


 フラウが魔法を発動させて来た!


 こっちも速い!


 無駄のない動きで、瞬時に方向転換して来たメイちゃんの動きは、まさに1秒程度だ。

  

 大会のルール上、魔導師が魔導式を頭の中で紡ぎ始めるのは、開始の合図があってからだ。

 ここを加味するのであれば、フラウは一秒から二秒の短時間で魔法を発動させた事になる。

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