女神と加護と勇者様【4】
「……忘れていたお……そうだお……アリンは、なんでも爆破で解決する……呪われた一族の一人だったんだおぉぉぉぉぉっっ!」
いつ、私の一族は呪われたんだよぉぉぉぉっっっ⁉︎
きっと、その場のノリで、厨二チックな台詞を格好良く口にしたかったのだろうアリンが、間もなく気合いを込めて叫んでいた。
もう、マジで勘弁してくれないかな?
私の家系は、別にそーゆー変な一族でも家系でも、なんでもない普通の人間ですから!
程なくして、アリンはスゥゥ……っと、ルゥ姫に右手を向けた。
……ふ。
その態度と良い、右手の向け方と言い……まんま、私だな。
そりゃ、アリンは私の娘ではあるんだけど、そんな所まで母親の真似をする必要もないだろうに……。
「抵抗しゅるなら、しても良いお?……やりぇる物なら……ね?」
「………ひぃぃぃっっ! マ、マム! な、なんて事をしてくれたのですかっ⁉︎ こ、このままだと、私……本気で木っ端微塵になっちゃうっ!」
もはや、完全に戦意喪失状態になり、蒼白な顔のまま泣きべそになっていたルゥ姫は、観客席の最前列までやって来たルミに向かって、超弩級の恨み節を言い放っていた。
そんな中、ルミは爽やかな笑みを向けて、緩やかにサムズアップした状態のまま、
「骨は拾ってあげるわ?」
最悪の母親過ぎるだろっ⁉︎
「マムのバカ! アホ! 自堕落魔神! せめて、マムも道連れにしてやるんだから!」
叫んだルゥ姫は、私も目を見張る程の素早さで滑空魔法を発動し、ルミの真後ろまでやって来ては、そのまま後ろから羽交い締めにして闘技場まで戻って来た。
………。
もう、やってる事がグダグダ過ぎないか?
「……え?」
羽交い締めにされた状態のまま、右手を向けているアリンの眼前までやって来たルミは、ポカンとした顔のまま、頭上に『ホワイ?』って感じの文字を浮かばせていた。
無理もない。
さっきまでは、ただの傍観者に過ぎなかった自分が、その数秒後に当事者と大差ない立ち位置になっていたのだから。
果たして。
「なんでも爆破で解決がドーンテン一族なんだおっ! 行くおっ!」
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォォォンッッッ!
ルミとルゥの二人は、仲良く爆破されていた。
……もう、勝手にしてくれ。
正直、かなりレベルの高い試合運びが見られると期待していた私だけに……ここまでグダグダな結果になるとは思いもしなかった。
『おぉーっと! これは強烈だ! 思いもよらぬ劇的な展開です!』
直後、インさんの実況の音声が周囲に響いた。
……きっと、グダグダ過ぎる試合展開であっても、どうにか白熱した物にしたい為、敢えて大仰に叫んでいるのだろう。
そう考えると……まぁ……その……うん。
インさんのプロ根性と言うか、その努力には感銘を受けるかも知れない。
『う! 素晴らしい一撃だ! う! あれこそが、伝承の中に出て来る「呪われたドーンテン一族」が持つ、伝家の宝刀……超炎熱爆破魔法!』
そして、私の一族は呪われていないからな?
解説のシズも、場の雰囲気を盛り上げる為に大仰な解説をしている模様だが……私の視点からすれば、謎の誇張をしてるだけに過ぎない。
さっきから何回も言ってるけど、私の一族はいつ呪われたと言うんだよっっ⁉︎
『呪われたドーンテン一族ですか? 剣聖、それはどんな一族なのでしょう?』
ドーンテン一族の人間である私にだって分かんないよ、それ?
解説のシズが答えた内容に、インさんも微妙に食い付いて来た。
そこは気にしないで欲しいのだが……?
『う! 良い質問なんだ! う!「呪われたドーンテン一族」と言うのは、どの様な問題が発生しても、必ず対象物を爆破で解決してしまうと言う、恐るべき一族なのだ! う! 例え、どんな困難が発生しようと、難問があろうと、爆破で全て一発解決! まさに悪魔の一族なのだ!』
そんな一族が居てたまるか!
てか、戦闘的な問題以外で難問が発生した時はどうするんだよ?
例えば、彼氏が出来ないとか、そう言う問題でも私は爆破で解決するのか?
やるわけないだろうがぁぁぁぁぁっっ⁉︎
『ドーンテン一族の恐ろしい所は、爆破で全てを解決して来る所なんだ、う! お腹が痛い人が居ても、胃腸薬の代わりに爆破し、困っている老人を見付けても、手を差し伸べる代わりに右手を向けて爆破魔法を使うのだ! うっ!』
『そ、それは凄い……まさに悪魔の所業ですね!』
ドォォォォォォォォンッッッ!
司会席は爆発した。
もう、お前らは黙っとけぇぇっっ!
『う? うぅぅぅっ!』
『え? うきゃぁぁっ』
二人は、この悲鳴を最後に大人しくなった。
ちょっとだけスッキリした所で、剣聖杯の一回戦は全てのカリキュラムを終えて行くのだった。




