女神と加護と勇者様【2】
しかし、私としては序盤からアリンとルゥの好カードが見れると言うのは嬉しい。
さて? 一体、どんな対戦になるんだろうな?
私的には、ルミと戦ったルゥ姫の素晴らしい試合を見せて欲しい所だ。
「では、初めて下さい!」
審判の合図と共に、アリンとルゥ姫の試合が開始される。
……と、同時に。
「……ふふふふ」
ルゥ姫は、自信に満ちた笑みを不敵に浮かべて見せる。
……?
何か秘策でもあるのだろうか?
「……お?」
アリンもキョトンとした顔になっている。
きっと、無駄に自信が有りそうな……だけど、根拠が全く見出せないルゥ姫の態度に、少し小首を傾げている……そんな感じだった。
果たして。
ルゥ姫が右手を高々と振り上げた……その瞬間!
「そ、それはぁぁぁぁっ!」
アリンが大きな声を上げた!
そんなアリンの視線に映った物……それは、ルゥ姫の右手に握られている……人形だった。
………。
何がしたいんだよ? それ?
近くで観戦していた私が、ポカーンと口を開けている最中、アリンは叫んだ。
「限定100体のプラムちゃん! プラムちゃんなんだおぉぉぉぉぉっっ!」
……ああ、そうかい。
叫ぶアリンの言葉に、私の目が半眼になってしまった。
だからどうしたと言いたい。
ハッキリ言って、戦闘とは全く関係のない展開が発生している中、
「ふふふ……流石、アリンちゃん! 一目でこれが限定版のプラムちゃんだと分かるなんて、流石は強敵と呼べるだけの猛者だねっ!」
ルゥ姫は、勝ち誇った声を、これでもかと言わんばかりに口から放って見せた。
取り敢えず言える事は、ルゥ姫が余計な知識を無駄にアリンへと叩き込んでしまった集大成の様な物がある……と言う事だけは、私にも良くわかったよ……。
「何を言ってるんでしゅか、ルゥちゃん! その神々しさを知らない人間なんて、もう人間じゃないおっ! 見て分かるのは当然なんだおぉぉぉっっ!」
じゃあ、私は人間じゃないんだな?
……私的に言うのなら、即座に分かる方が、人間としてどうかしていると思うんだけどな!
二人は、これが剣聖杯と言う、冒険者アカデミーの試合だと言う事を完璧に忘れているんじゃないのか? と、思い切り叫んでやりたい様な会話を展開している。
せめて試合しろよ……マジで。
「ふふふ……このプラムちゃんの価値を知っているアリンちゃんであるのなら……きっと、この相談に乗ってくれるよね?……ううん、違う! 乗ってくれなきゃダメ! 良い? アリンちゃん? この勝負は、私に譲って? 普通に降参してくれればそれで構わないから」
「……お? そんな事はしたくないお? アリンは負けたくないお!」
「だから、取引だよアリンちゃん? もし、この試合の勝ちを譲ってくれたのなら、この限定100体のプラムちゃんを上げるわ!」
「な、なんですとぉぉぉぉっっ!」
ルゥ姫の言葉に、アリンは強い衝撃を受けていた。
……そろそろ、良い加減に試合をしてくれないかな? マジな話……?
「き、汚いお! ルゥちゃん! そ、そんな限定のプラムちゃんを餌に、アリンを負けさせうなんて……」
アリンは苦々しい顔になって言う。
……確かにクッソ汚い事を言っている事に間違いはないのだが……そんな誘惑に心を大きく揺るがしているアリンちゃんにも、あたしゃビックリしか出来ないのだが?
アリンは暫く苦悩する形で苦しんだ。
もはや、悶絶する勢いだ。
他方のルゥ姫は勝ち誇った顔のまま、右手のプラムちゃん人形だかを、アリンの前にズィッッッ! と見せ付ける形で握り締めている。
……はぁ、やれやれだ。
仕方のない奴だ。
「オイ、アリン! その人形が欲しいのなら、私が買ってやるから……普通にやれ!」
私は呆れ眼のまま、アリンへと声を掛けた。
だが、アリンの顔は冴えない。
これはどうした事だろうか?
「か〜たま……それは無理なんだお……そのプラムちゃんは限定100体のプレミアムな人形で、もう売ってないお」
……ああ、そう言えば、そんな事を言っていた気がするな?
「それに、あの限定版のプラムちゃんは、もし売っていたとしても税込三万五千七百マールもするんだお!」
……なん……だ、と?
泣き声にも変わっていたアリンの叫びに、私は猛烈な衝撃を受けていた。
え? 人形なのに……三万?
三千マールだって高いと思うのにっ⁉︎
ヤバイぞ……これは由々しき問題だ!
私的に言うのなら、オモチャ売り場にある1980マール(税別)の人形ですら、買うのに五分は悩むと言うのにっ!
「アリンだって馬鹿じゃないお! 普通の人形ですら買ってくれないドケチなか〜たまが、限定版のプラムちゃん人形なんて買ってくれない事ぐらいは分かってしまうんだおぉぉぉぉぉっ!」
アリンは、心からの咆哮を、口からあらん限り吐き出すかの様な勢いで放出していた。
確かに買う気にならないけど、そこまで絶望的な顔をして叫ぶんじゃないよ!
まるで魂の叫びみたいな勢いで、思いきりシリアスな空気を作って絶叫するんじゃないよ!
そんな悲痛の叫びをされたら、私が本当にケチな女みたいに聞こえるじゃないかっっ!




