学園祭と剣聖杯と勇者様【22】
『そう言えば、少しだけ気になっていたのですが、剣聖? この大会でもシードとして準決勝から登場すると思われれる、リダ・ドーンテン選手は、世界・冒険者協会の会長さんと同じ名前なんですよね? ファーストはもちろん、セカンドも同じなのですが……これは、偶然ですか?』
『偶然……じゃないかなぁ……う』
いや、そこは、もっと堂々と言えよ!
実況していたインさんの問い掛けに、シズはしどろもどろになりながらも否定していた。
もう、完全に『私は嘘を吐いています』って感じの態度を露骨に取っていた。
そこは、マジで勘弁してくれないかなっ⁉︎
特段隠す必要性なんて、もうない様な気がするのだが……やっぱり、この学園は冒険者協会が設立した物だ。
そこを加味するのであれば、絶対にこの学園の生徒が私の身分を知った日には、それ相応の気遣いをするだろう。
私的には、やっぱりやって欲しくないのだ。
同じ学園の生徒でしかないのだから、変に気遣われるのは本意ではないので……やっぱり、会長である部分は伏せて置いた私。
しかし、この調子だとシズ経由でバレてしまいそうな勢いだった。
シズ……。
私はお前を爆破したくないぞ!
『……う! ちょっとお腹がアレなので、そろそろ剣聖の観戦席に戻るんだ! うっ!』
『え? いや、ちょっ……剣聖?』
程なくして、シズは実況席から、そそくさと離れて行った。
きっと、私の怒りを恐れての事だろう。
実に賢明な判断だなっっ!
……と、実況席でシズのふざけた解説が行われている中、試合が始まりを迎えた。
「……ああ、リダ様。あの女で間違いないです。あの妙にお高く止まっている感じは、夢の中で見るとより嫌悪感を抱けます。今回は遠くて良かったですよ、本当に」
試合が開始されて間もなく、ユニクスが私へと答えた。
……ふぅむ。
「なるほど? 夢の中に出て来た女神と同じ外見をしているのか」
私は、誰に言う訳でもなく呟いた。
外見まで、全く同じだったのなら……さりげない部分が微塵もないんじゃないのかなぁ?……とか、思ってしまう。
言われて見ると、確かに彼女には神々しいオーラの様な物が見える。
これは、普通の人間に見える物ではないな?
言うなれば守護霊に近い。
ここを見る能力は、普通の人間だと早々ないからな?
私が知っている限りで、同じ学園内で守護霊を見る能力を持っているのは、私がコツを教えたルミぐらいじゃないか?
あとは、アリン辺りなら守護霊を見る能力があっても、おかしくはないかな?……程度だ。
……おっと。
そうだった、アリンがどっかに行ってしまったんだ。
プログラムを見る限りだと、アリンの出番はもうすぐだな?
一回戦のAブロックが終了し、続くBブロックに入ってすぐの試合が、アリンの試合だった。
ここらを加味すると、すぐにでも見付け出さないと行けない。
「……ま、取り敢えず匿名希望の女神様とやらの顔を拝めた……って事で、私はアリンを探しに行くよ」
「そうですね……それにしても、これだけ離れていると言うのに、あの嫌悪感……うぅ……どうも、私はこの感覚が苦手です」
私の言葉にユニクスは頷いてから、少し気分でも悪くなったのか? 顔をくしゃりと歪ませていた。
ふぅ〜むぅ。
もしかしたら、ユニクスは現在こそ人間ではあるのだが……悪魔転生をしている関係上、前世の感覚がユニクスには残っているのかも知れない。
飽くまでも予測に過ぎない話なのだが……恐らく、悪魔には神を嫌悪する何かが本能レベルで埋め込まれているのかも知れない。
事実、ユニクスは本気で毛嫌いしている感じだった。
他方の私は、全くその様な嫌悪感なんぞない。
むしろ、神々しいオーラの様な物を感じて、清々しい何かを貰っているかの様な感じだった。
……まぁ、ここは……やっぱり種族の差と言うかなんと言うか。
悪魔は、神を本能的に怖がる……と言うのは、一つの理なのかも知れない。
ここに関しては、私も予測でしか物を語る事が出来ないんだけどな。
そう考えると、悪魔転生からの勇者ってのは、地味に苦労するのかも知れない。
転生前……前世の関係で、妙な恐怖感の様な物を無条件に感じてしまい、抱く必要のない感情まで無駄に抱く羽目になるのだから。
ちなみに女神様なのだが、笑ってしまうまでにアッサリと勝利を収めていた。
……ま、ここは私の予測通りだ。
流石に私も、女神様が負けるとは思っても居なかったからな?
大方の予測通り、女神様は軽く捻る程度の勢いで対戦相手を撃破し、悠々とした態度で二回戦へと進出して行くのだった。




