学園祭と剣聖杯と勇者様【20】
ここぞと言う所では役に立たないと言う……冷静に考えたのなら、悪魔に助けて貰おうと言う時点で色々と間違っていたのかも知れない気持ちになっていた私がいた頃、ユニクスは笑みのまま再び口を開いた。
「……それに、ですね? あのスカした女が言うには、この大会にしっかり出場さえしてくれれば、破滅の女神に対抗出来るだけの能力を『さりげなく与えてあげましょう』と言う事だったんですよ? これ、どう思います? なんか、上から目線も甚だしいですよね?」
「お前が勇者で、相手が女神なら、別段おかしい事ではないだろ?……それより、さりげなく与えてくれると言う事は、お前に加護でも与えてくれると言う事なんじゃないのか?」
「加護ですか? 私は既にリダ様から加護を与えて頂いでいるので、これ以上の物など必要ないと思うのですが……?」
ユニクスは、答えてから眉を捻って唸り声を上げていた。
私の加護とか言うけど……それ、呪いだからな?
「私的に言うのなら、天啓を与えた女神様からの加護を受けた方が、お前らしい……と言うか、勇者らしいと思うんだが?……まぁ、良い。それで?『さりげなく』与えられると言うのは、どう言う事なのか、分かっていたりするのか?」
「申し訳ありません……実は、私も良くは分かってないのです……ただ、一つだけ分かっている事は、ヒントとして本戦のトーナメント表を見れば『あるいは分かる』かも知れない……との事でした」
トーナメント表……か。
「それがヒント? まぁ、私には良く分からない事ではあるが、まずはトーナメント表を見て……」
みよう……と言おうとした所で、私の口が止まった。
何気に、トーナメント表は手元にあったりもする。
何なら、学園祭を宣伝するチラシにも、剣聖杯のトーナメントと出場者の一覧がある程だ。
果たして、そこには……。
「……これ『さりげない』で済むレベルなのか?」
トーナメント表を見て気付いた。
そこにある、あからさまに不自然な存在に。
思わず眉が捩れてしまった私の視線は、トーナメント表の中にある出場者の名前にあった。
一見すると、それは普通に出場者の氏名が載っている……それだけだ。
実際問題、そこに変哲を見付ける事は難しい……否、本当なら変哲なんぞあろう筈がない代物だった。
しかぁ〜しっ!
今回に関しては、氏名の一覧にて、一点のみ変哲過ぎて草が生えてしまう、ハチャメチャにおかしな名前が書かれていたのだ。
果たして。
「匿名希望(女神)……これは、不自然ですね……」
ぼやき口調で答えたユニクスの言葉が、全てを語っていた。
もうね? これね? ツッコミを待っているんじゃないのか? って勢いの名前だったよ!
だってだ? さりげなくする為に、名前を『匿名希望』にしている時点で、もはや『さりげなさ』なんて微塵もないと言うのに……更に『女神』ってカッコに入れて、わざわざ書いているんだぞっ⁉︎
「まずいぞユニクス……この女神、もしかしたら天然かも知れない……気を付けるんだ」
「そこは存じております。私にとって、このスカした女に忠誠を誓った記憶などありません! 最初から全く信じておりませんので!」
そこは信じてあげなさいよ!
胸を張り、心の底から断言しているのだろうユニクスの言葉に、私はどんな返事をして良いかで、大きく迷ってしまった。
そうこうしている内に、今年の剣聖杯・本戦が開幕して行く。
私とユニクスの二人は、それぞれ準決勝からの登場になる為、午前中は出番がない。
……まぁ、そこらの関係もあった為、能天気に雑談をしていられたのだが。
一回戦・第一試合は、早くもチャンピオンが登場していた模様だな?
取り敢えず、クラスメートでもあるし?
軽く応援程度はしてやろうか?
……思い、
「私は、これから剣聖杯を見に行くけど、ユニクスはどうする?」
軽い口調で私は、近くにいたユニクスへと尋ねると、
「リダ様向かう所にユニクスありです! もちろん、御供致します!」
即座に頷いては同行して来た。
コイツはどうして、そこまで私に忠義を抱いているのか?
正直、そこまでする必要なんぞないと言うのに。
……そうは思うが、ユニクス本人に尋ねる事はない。
聞いたら、きっと……ユニクスを爆破したくなる様なレズピアン・チックな台詞が口から飛び出して来るに違いないからだ!
私の精神衛生上好ましくないので、ここは敢えて聞かないで置こう。
取り敢えず、チャンピオンの勇姿を見ようと、会場の方に足を運んだのだが……結果は既に決まっていた。
後から聞いた話によると、開幕数秒で決着がついてしまったらしい。
……まぁ、そうな?
チャンピオンも、人外レベルの能力を持っているから、その様な結果になってもおかしくはなかったんだよな。
地味に納得する私が居るだけで、第一試合は終了してしまった。




