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学園祭と剣聖杯と勇者様【19】

 よって、どの様な誓約書であろうと、私からすれば全く問題はなく……むしろ、これを口実にバアルが諦めてくれるかも知れない……と、内心では少しほくそ笑んでいた程だった。


「流石はリダ様です! この私に魂を預けても構わないとは……もはや、感無量でございます!」


 ……いや、だから……そこまで許した記憶は全くないぞ?

 何となく、これはやっては行けない契約までさせらてしまうんじゃないのか?……と、少しばかり胸中で後悔混じりな心情を生み出していた頃だった。


「フハハハッ! アシュアよ! 貴様の魂胆など、このバアル・ゼブル様には全てお見通しだ!」


 ……面倒臭い存在が出て来た。


 ……チッ。

 そうか……思えば、空間転移が出来るのはアシュアだけではなかったな!


 面倒だから、その場で爆破してやろうか?


 ふと、こんな事を考えた私がいた頃、


「はぁっっ!」


 バアルは素早く動いて、ルンルン気分で作成していたアシュアの右手にあった、血判状の様な物を素早く奪い去っていた。


「……なっ! バアル様! なんて事をっ⁉︎」


 アシュアは、顔を蒼白にした状態で叫ぶ。


 ついさっきまで、結婚間近で寿退社するか、産休だけ貰って会社には残るかどうかで悩んでいる、幸せ一杯なOL染みた顔をし、顔から愛らしく音符まで吐き出していたアシュアからは考えられない表情の変化であった。


 ……まぁ、可愛らしく鼻歌まで混じらせて作り出していた血判状は、明らかにアシュアの見た目からは想像も出来ない様なおどろおどろしさがあったりもするんだけどなっ!


 何はともあれ。


 私もポカンとなってしまうばかりの超スピードで、アシュアの右手から血判状を奪い取ったバアルは、


「フハハハッ! では、さらばだ!」


 そのまま、煙の様に消えてしまった。


 ………。


 結局、アイツは何がしたかったのだろう?


 仮に血判状を奪い去ったとしても、それを作成していたのはアシュアだ。

 簡素に言うのなら、新しいのをもう一枚用意すれば良い……ただ、それだけの話。

 よって、一枚ばかり奪って行ったとしても、もう一枚用意する手間がちょっと増えただけの話で、実質何も変わらないと言うのが現状だ。


 ……と、私は思っていたのだが、


「チッ! やってくれますね、バアル様!」


 どうやら、そこまで単純な話ではないらしい。


 どう、単純ではないのかと言うと?


「あの血判状には、既に私のサインが書かれているのです!……つまり、既に私は『許諾した』と言う事になってしまいます!」


 アシュアは、右手の拳をおもむろに握り締め『ぐぬぬぅっ!』って感じの唸り声を、口から吐き出していた。


「後は、リダ様の名前を書き込む事で契約は成立し……血判は完成する予定でした!……が、その前にバアル様がその血判状を強奪してしまった!」


 ……ふむふむ。

 なるほど……大体の事はわかった。


 簡素に言うと、本当なら私が書く筈だった書名の所に、


「……バアルが自分の名前を書くつもりでいるのか」


 私は納得加減の口調になって答えた。


 しかしながら、そこには謎が残る。

 確か、私とバアルが交際出来なくなる血判状だった気がするのだが?


「それだけではありません! バアル様であるのなら、血判状の内容を『私とバアル様の交際は永久にしてはならない!』と言う文言に変える事すら可能!」


 ……ああ、そうなるのか。


 すると、あれか?

 バアルにとっては、アシュアが起こして来る面倒な事柄を、これで一気に精算する事が可能になるのか。


「……それは面倒だな?」


「ですよね! ぐぬぬぬぅっ! どうしてくれるのですか、リダ様! これが原因で、私とバアル様の二人が永遠に結ばれる事の出来ない間柄になってしまった日には、私はリダ様を永遠に呪いますからね!」


 ……それは勘弁してくれないか?

 もう、完全な八つ当たりだし。


 ……と、言うか? だ?


「お前はバアルを追わなくても良いのか?」


「……はっ! そ、そうでした! では、失礼!」


 言うが早いが、アシュアは素早く消えて行った。

 きっと、血判状を全力で奪い返すか、消去するかのどちらかの事をしに行くのだろう。


 取り敢えず、一つ言える事は、


「すまん、ユニクス。どうやらアシュアのトレーニングは無理の様だ」


 私は苦笑いのままユニクスへと答えた。


 ユニクスは、暫く唖然とした顔になっていたのだが、


「……いえ、大丈夫です。リダ様が悪い訳ではないですし……どの道、アシュアのトレーニングとか言うのは、余りやりたいとは思っていなかったので」


 程なくして、ユニクスは笑みのまま答えた。


 ……まぁ、悪魔王の特訓とか、やっぱり胡散臭さが滲んでいるからな。


 私だって、チャンピオンの一件がなかったのなら、絶対に懐疑心しか生まれなかったであろう。

 ……今回は仕方ないので諦めるか。

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