学園祭と剣聖杯と勇者様【18】
「どんな目的でも構わない……と言う条件であるのなら、私も自身のパワーアップを望んでおります。以前の迷宮で、全く活躍する事が出来ませんでしたからね……」
答え、ユニクスは肩を竦めた。
どうやら、少しは劣等感の様な物を抱いていたらしい。
「それなら答えはもう出てるな? じゃあ、アシュアの特殊なトレーニングを受けてくれ」
「……アシュアですか?」
……あ、物凄く露骨に嫌な顔してるし。
気持ちは分からなくもない。
アシュアは悪魔王だ。
確実にまともなトレーニングではない事を、この時点でユニクスは嫌でも予測するに違いない。
ついでに言うと、アシュアは私を目の敵にしている関係上、ユニクスもアシュアを良く思わない。
私からするのなら、大きな勘違いも良いレベルなんだけどな!
しかしながら、その効果は絶大だ!
……トレーニングの内容も大概だけどな!
「私としては、余り気乗りしないのですが……そのぅ……実際問題、ですね? 能力は格段に向上するのですか?」
声質からして不信が言霊に乗せられているユニクスは、顔でも台詞に比例するかの様に後ろ向きだ。
もう、嫌な予感しかしてません……って、顔に書いてあるかの様だ。
「安心しろ。お前の予測を大幅に凌駕する上昇をする。場合によっては私の能力をも超えるかも知れないな?」
なんと言っても、最大で倍加し……二十回までは2の乗数で能力が上昇して行くんだからな?
私的に言うのなら、能力がインフレし過ぎて、もはや全力で戦うバトル・フィールドがなくなるんじゃないのか? って、真面目に思ってしまうレベルだ。
「それは凄い! 是非やってみたいです! 能力でリダ様を超えると言う事は……つまり……はぁはぁ……力でリダ様を強引に押し倒して……」
「そう言う、邪な理由なら却下しても構わないぞ?」
本当にコイツは勇者なんだろうか……?
個人的に、動機があまりにもお粗末過ぎる為、素直に共感出来る物ではないのだが……しかし、私にも残り19回の能力上昇が残っている。
これらを考えるのであれば、最終的にユニクスの能力を上回れば良いのだろうし、破滅の女神とやらの実力を『私が上回れば』なにも問題はない。
簡素に言うのなら、私もアシュアのトレーニングを受け、あの無駄に長ったらしい薬を服用して、能力を倍加させて行けば良いと考えていた。
「所で、いつアシュアを呼んで、その特殊なトレーニングを開始するのですか? もう、開会式が始まって……間もなく第一試合が始まってしまうと思うのですが?」
「そこも安心しておけ。時間の概念はこっちとは全く関与しない。つまり、時間の事は全く気にする必要などないのだ」
ユニクスの問いに、私は自信を持って声を返す。
更に私は再び口を開いた。
「アシュアの召喚方法も簡単だぞ?……良いか? 見てろ?」
「……?」
私の言葉に、ユニクスは不思議そうな顔になる。
まぁ、普通に考えたらそうなるだろう。
私としても……本来であれば、こんな事で呼べるとは思えないのだから。
しかし、私は確信している!
あのアシュアであるのなら、
「おい、アシュア! バアルと永遠に交際しないと誓ってやるから、ちょっと出て来い!」
こうと、適当に虚空へと叫べば、
「それは本当でありますか! リダ様っ!」
何処からともなく、空間転移魔法して来る。
「……と、こうやればアシュアは勝手に出て来る」
私は笑みのままユニクスへと答えた。
自分でやっていて言うのも変な話だが、やっぱりアシュアには常識がないよなっ!
「な、なるほど……」
突発的に出て来たアシュアを見て、ユニクスは納得混じりの声を吐き出していた。
まぁ、半分は呆れも混じっていたのだが。
他方、アシュアは凄まじいテンションで、私へと声を投げ掛ける。
「リダ様! さっきの言葉、しっかりと言質を取りましたからね? 今更、前言撤回! などと言ってもダメですからねっ⁉︎」
……ああ、はいはい。
別にそんな事をするつもりはないよ。
「前言撤回なんぞする気はない。何なら、誓約書でも書いてやろうか?」
「な、なんと! それは誠でありますか? リダ様! つまり、血の誓約書を書いてくれると言う事ですよね!」
そこまでするとは言ってない。
正直、即座に否定的な台詞を口から吐き出してやろうとも思ったが……やめた。
「血判だろうがなんだろうが、好きにすれば良いさ」
私はニッ! っと笑みを作ってアシュアに答える。
実際の所、最初からバアルと付き合うつもりなんぞなかった私からすれば、そこまで問題にはならなかったのだ。




