学園祭と剣聖杯と勇者様【16】
毎度の事ではあるが、シズの実力は世界屈指で間違いなく……また、どう言う訳か? 人望なんぞもかなりあって、世界最強の剣士としての名声なんぞも持っている。
私個人の感想から言わせて貰えば、かなりふざけた性質を持つ、非常識なおねーさん……って感じなんだけどな?
余談だが、ういういさんの頭上辺りにちょこんと乗っては、お茶を飲んでいる魔導人形……シズ1000ってのが居るのだが、そのシズ1000は私の眼前にいるシズを元に作られている。
喋り方や性質が普通の人間と大きくピントがズレているシズ1000ではあるのだが、そのオリジナルの性質を忠実に表現した結果、あの様な破天荒な性質になっていたりもする。
つまり、シズとはそう言う人物だ。
余談だが、外見も一緒だ。
左右に大きなお団子が付いている。
シズ1000と違う所は、これをオシャレとしてやっている髪型の一つ……と言った所だろうか?
シズの場合は、単なる髪型の一つに過ぎないので、何らかの理由があった時は髪を下ろしたりする時もある。
その時は、何気に私より髪が長かったりもするぞ?
普段はツインテールにしている私の髪も、下せば腰の近く程度まであったりするのだが、シズの場合はお尻の辺りまで髪が降りて来るからな?
……と、地味に前口上が長くなってしまった所で、話を本筋に戻す事にしようか。
「う! 今年もリダは真面目にやるのか?……いや、リダであるのなら真面目にやるとかやらないとか、そう次元ではなかった! う! 質問を変える。今年も『勝つ気でいるのか?』う?」
シズは、割りと真剣な眼差しで、私へと問い掛けて来た。
……言いたい事は分かる……分かるんだけど。
「相手が誰であろうと、手を抜くのは私の性分に合わないからな……まぁ、正直に言うと、わざと負けてやらん事もないとは、少し考えてはいたんだが……」
「う! じゃあ、今年もリダが勝つと100万マール程度ベットして置こう! う!」
人を賭け事の対象にするんじゃないよっっっ!
つーか、学園のお祭りなのに、どこで賭けとかやってるんだよっ!
「冗談だ……が、普通にオッズはあるぞ?……ほら」
言うなり、シズは一枚の紙切れを私に見せて来た。
……紙切れの中には、剣聖杯に出場するメンバーの名前と、配当オッズの数値が……。
何処のバカが、人の試合をギャンブルの種にしてくれているんだよ!
……なんぞと思ったら、胴元がトウキ帝国で、運営が冒険者協会だった……。
つまり、これは国も認めた公式のギャンブルだったのだ。
「腐ってるなぁ……私達の世界」
「そこまで怒らなくても良いだろ? う? これも祭りとしてのお遊びだ。だからリダに100万マール程度の賭けをしても良いと思ってた〜! うっ!」
オッズ表を見て……呆れと怒りで手と肩を震わせている私が居た頃、シズがキュピ〜ンッッ☆ っと瞳を輝かせながらもグッジョブしていた。
「だけど、シズさんは思うのだ、う! リダのオッズがなんと1.002倍! これでは100万マール賭けても、戻って来るのがたったの2000マールなんだ! う! もうちょっと手加減して置け! う〜っっっ!」
そしてオッズの絶望的なショボさ加減に対し、私へと痛烈な文句を言って来るシズ。
そんなのを私に言われても困るぞ! いや、マジでっ!
「ともかく、話は以上! 健闘を祈るんだ! う!」
シズは、言いたい事を好きなだけ言うと、そのまま何処かへと消えてしまった。
本当に何が言いたかったのだろう……?
きっと、特に言いたい事もなかったんじゃないのかなぁ……と、思う。
本気で、オッズがショボいと思っているのなら、私ではなく賭けをしている運営の方に文句を言うだろうしな?……多分!
何にせよ……拙い話ながらも、私に声を掛けて来たのは、一応の顔見せも兼ねていたのだろう。
……そう言う事にして置こう。
きっと、それ以上の事を深く考えてしまうと、私の精神が無駄に疲れると思えたので、敢えてそれ以上の事を考えずに居ると、
「リダ様! 立派でございました!」
快活なユニクスの声が転がって来た。
顔を合わせるよりも早く、私を褒めて来たのは……きっと、私の選手宣誓を間近で見ていたからであろう。
うむ! それは良い心掛けだ!
「リダ様の凛々しいお姿に、このユニクスは感服致しました! もう、あの姿を思い浮かべるだけで……はぁはぁ、私は……私は、胸が一杯に……はぁはぁ……そして、愛と夢と妄想が膨れ上がる想いでありました!」
「ついでに爆発もして置くか?」
「……すいません、そこは勘弁して下さい」
吐く息も荒く……完全に興奮して頬を赤らめていたユニクスを見て、私は無造作に右手を向けながらも声を返した。
……うむ!
どうやら、ユニクスは平常運転に戻った模様だ!




