学園祭と剣聖杯と勇者様【15】
「……し、しまったぁぁっ!」
場外に落ちて、思い切り悔しがるチャンピオン。
多分、この前回の二次予選で、アッサリとアリンを場外に落としてしまったから、思い切り油断してたのだろう。
まぁ、お互い様か。
思えば、前回はアリンが油断して場外に……今度はチャンピオンが油断して場外に落ちていた。
私的に言うと、どっちもどっちだ。
つまるに、極論からすれば、
「……油断大敵」
私は誰に言う訳でもなく独りごちた。
結局は、油断の二文字が敗北の要因なのだろう。
……ま、私としては体育館が吹き飛ばなかったし……ヨシとして置こうか。
バアルに弁償しろと言われる心配がなくなったからなっ!
……かくして。
「勝った……勝ったんだお! だけど、ビミョーにスッキリしない戦い方だったお! 本気でやれと言いたいかもだおっ!」
それをお前が言うんじゃないよ? と言いたくなる様な台詞を臆面もなく吐き出していたアリンが、一位通過で本戦へと進んで行くのだった。
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……と、地味に長くなってしまったが……この様な経緯を経て、ようやく剣聖杯がスタートする。
当日は、学園祭と合同……と言うか、学園祭のメイン・イベントとして開催されるのが剣聖杯なので、周囲は完全なお祭りムードだ。
二度言う様で恐縮ではあるのだが、学園祭の一つでもあるので、教室では各々の出し物を行っており、私のクラスではお化け屋敷の様な事をやっていた模様だ。
……まぁ、私は剣聖杯で選手をする関係もあり、余り携わる事はなかったのだが。
しかし、それでもフラウやチャンピオンの二人は、しっかりとクラスの出し物の準備とか雑用などを、色々とやっていたらしい。
ああ見えて、フラウはクラスでも優等生だからな。
きっと、クラスメートにも頼られるのだろう。
私は全然頼られる事はないんだけどなっ!
これでも会長だし、成績も良いんだけどなぁ……どう言う訳か? 私は周囲のクラスメートに頼られる事はない。
女子は、チャンピオンの一件から、地味に邪険な態度を取る者が増えたし。
男子は、魔王リダと言う、根も葉もない虚構の存在へと勝手に祭り挙げてくれた為、今でも恐怖の対象にされる事が多いし。
……くそ。
どうして、こうなった?
私的には、少し不本意な部分も多々あるのだが、クラスの行事に関してはフラウの方が、強いリーダーシップを発揮する事が通例になっていた。
ここらの事情もある為、私やアリン、ルミやルゥ姫のニイガ・プリンセス・コンビなどなどは、普通に剣聖杯の選手として専念する事になって行くのだった。
選手宣誓は、昨年優勝者の私だ。
正直、こう言うのは余り得意ではない。
だけど……まぁ、一応は会長とかやってたからな?
なんだかんだで、それっぽいスピーチと言うか、選手宣誓をやったりもする。
「か〜たま! 格好良かったお! なんか、日頃のか〜たまとは別のか〜たまに見えたんだお!」
「うむ! そうだろう、そうだろう! 日頃のか〜たまとは別の凛々しいか〜たまに……うん? いや、待って? アリンちゃんにとってか〜たまは常日頃から凛々しさがあったりしないのかい? そりゃ、いつもは優しいか〜たまをしているから、そう言う慇懃な態度とか顔とかはしてないかも知れないけど、もっと別な褒め方とかなかったのかな?」
「ないおっ!」
選手宣誓の言葉を終わって戻って来た私は、瞳をキラキラさせた状態で言うアリンちゃんの言葉に、心因的な衝撃を受けた。
……くっ!
こんな事では行けない!
次からはもっと……こうぅ……威厳ある母として生きなければ!
「でも、普段のか〜たまが一番好きだお! アリンは、優しいか〜たまが大好き〜!」
……うん、でも良いか。
いつも『キリリッ!』ってしている事ばかりが母親じゃないよね?……って所で、私の考えが纏まった。
少し娘に甘いかも知れないが……まぁ、良いではないか!
私はアリンちゃんに好かれたいのだ!
「う〜。さっきの選手宣誓は見事だった、う! だけど、リダが選手宣誓をすると言う話を聞いた時は、私もちょっと期待していたのだが……少し期待をし過ぎた! う!」
程なくして、冗談みたいな台詞を真剣な顔をして言う剣聖様がやって来る。
……そう言えば、この大会を開催しようと立案していたのは、剣聖のシズだったな……。
シズに付いては、私の話にも少しは出ているので、知っている方もいるだろう。
トウキ帝国より北にある国・クシマ国にて冒険者協会の会長をしている者だ。
そんなシズの肩書と言うか……称号が『剣聖』だった。
元々は陽の一族と言う、特殊な部族の戦士だったらしい。
まぁ、私はそこまで詳しい事は知らないから……まぁ、興味を持ったら、みかん本編辺りを見れば、少しは分かると思う。
……少ししか書いてないが、私が知っている事よりは、より掘り下げた話しを見る事が出来るぞ?
そこはさて置き。
「シズ……お前、今年も呼ばれてたのな?」
「う! 当然だ! この大会は、私の暇潰し……ゲフンゲフンッ! 私の趣味で始めた事だからな!」
私の言葉に、シズは瞳をキュピ〜ン☆ っと輝かせて答えた。
言い直してはいたけど、言い直した台詞も普通に大概だった。




