学園祭と剣聖杯と勇者様【14】
思わぬ形でルミの成長を見た私は……今後も成長して行くのだろうニイガの姫様へと、細やかなエールと送るのだった。
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学年予選も、次で最終戦となる。
……つまり、決勝戦だ。
「今度は負けないおぉぉぉぉぉっっ!」
最初から全開状態で臨んだアリンが、再び対戦するだろうチャンピオンの元へと向かって行く。
……まぁ、今回は私の魔導防壁があるから大丈夫だとは思うんだけど……でも、怖いから少しは手加減して欲しい。
こんな事を考える私だが、実際にアリンへと言った言葉は、これも真逆だ。
「その意気だ、アリン! 頑張って来い!」
「頑張るお! フェル君には悪いけど、塵にしゅる位、本気でやりゅんだお!」
そこまではしなくても良いからな!
正直、口から出掛かった私ではあったのだが……その言葉は喉元辺りで飲み込まれた。
理由も簡素な物だ。
きっと、チャンピオンであるのなら……アリンの本気を受け止めても、五体満足な状態を保っていられると思ったからだ。
もっと言うのなら、アリンがチャンピオンに勝てるとは思えない。
確かに、アリンの能力はとんでもないし……未来は、私をも超える化物冒険者になる可能性だって十分あるのだが……しかしながら、アリンちゃんはまだ三歳。
私としても、まだ最強の座を開け渡す訳には行かない。
せめて五歳!……そう! そこまでは母親の威厳を守りたい!
三歳も五歳も、あんまり変わらない気がするんだけどなっ!
どちらにせよ、今のアリンでは……まだ、チャンピオンの相手をするのは難しいかも知れない。
けれど、私としては、これも経験だと思っている。
人間、全てに置いて常勝続きであるとは限らない。
敗北もまた、長い人生においては、あって然るべき経験ではあるし、なくてはならない貴重な体験でもあるのだ。
私的に言うのなら、むしろ勝利よりも敗北の方が大切だとさえ思っている。
正確に言うのなら『敗北を知った後』と表現するのが、より妥当だろうか?
敗北を知り、自分よりも上が居る事を身を以て痛感する。
その先にある物は何か?
負けた事で腐って行くのか?
悔しさをバネに勝利を目指すのか?
自分よりも上が居た事で、逆にやる気を出すのか?
敗北後に感じる気持ちは、まさに千差万別で……人によって全く異なる物だと思う。
けれど、負ける事で得られる物があると感じられる人間は、その後に化ける……と、私は思っている。
敗北から学べる物は多く……そして尊い。
私は、常勝ばかりの人生ではなく、時には敗北もある人生を歩んで欲しいと思っているのだ。
負けてしまった人間の気持ちを、誰よりも良く知っている人間になって欲しいのだ。
だから、私は敢えて……アリンが負けてしまうだろう試合を、笑顔のまま見届けようと思っていた。
思っていたんだけど。
「それでは、開始して下さい!」
そうと答えた審判の声と同時に、チャンピオンが動いた。
……その瞬間。
超攻撃力上昇魔法レベル99!
超防御力上昇魔法レベル99!
超身体能力上昇レベル99!
超龍の呼吸法 レベル4!
ボワァァァァァァッッッ!
一瞬にして、アリンは自分の能力を完全に解放する!
きっと、私の魔導防壁がなかったのなら、この瞬間に体育館が吹き飛んでいただろう!
やるとは思ったけど、普通に勘弁して欲しいんですけどっ⁉︎
「うわっ!」
次の瞬間、チャンピオンは突発的にやって来た衝撃波により、吹き飛んでしまう。
きっと、盲点だったのだろう。
……超龍の呼吸法レベル4を発動出来る程の腕前であるのなら……エナジーのコントロール程度の事は普通にやって来る。
これが出来ないのであれば、レベル4発動時に消費されるエナジーの消費量が高くなり過ぎて、戦闘になんぞならないからだ。
恐らく、立っているだけで気力が消失して行くんじゃないだろうか?
よって、普通に考えるのであれば、レベル4が発動した瞬間に、エナジーの急上昇によって生まれる余波の様な物など発生せず、能力が上昇したと言う事実がある事だけを『普通に見る』事が出来る。
しかし、アリンは三歳児。
まだまだ、急激なエナジー上昇のコントロールが出来ていない。
その結果、周囲にとてつもない余波を撒き散らし……間近にいたチャンピオンを大きく、ド派手に吹き飛ばしていた。
果たして。
「……場外! 勝者、アリン!」
チャンピオンは場外に落ちた。
………。
……いや、何をやってんだよ……お前。




