学園祭と剣聖杯と勇者様【10】
更に言うのなら、二回戦で戦った相手も悪かった。
学年予選の二回戦で当たった相手は……パラスだ。
三編目の、巨人族編を読んでくれた方は分かるかも知れないが、去年までは同じクラスの男子生徒でもある。
前回の剣聖杯では本戦に出場しており、その能力もランクS+程度に匹敵する。
私的に言うと、運が悪かったな……そう思えてならない。
ただ、パラスの方も決して運が良いとも言えなかった。
私の感覚で言うのなら、むしろパラスの方が不運だったんじゃないのかなぁ……なんて思ったりもする。
それと言うのも……だ?
二学年のトーナメントに限り、三回戦からトーナメントが再抽選されてしまうからだ。
なんでこんな事をするのか?
理由はルミの存在にある。
今回のルミは、最終予選の三回戦からの登場になっているのだが……前にも述べた通り『同じクラスのメンバーとは、絶対に三回戦までは当たらない』と言う、謎の忖度ルールが存在している為、三回戦でトーナメントが組み直される仕組みになっているのである。
本当……ここまでする必要があるんだろうか?
飽くまでも私個人的な見解ではあるのだが、こんな事をする必要性なんぞ、微塵もない様な気がするなぁ……。
何はともあれ。
この、謎ルールにより……三回戦の相手は再度、トーナメントを変更される形で行われる。
きっと、他のクラスからすれば、依怙贔屓だ! と、思い切り騒ぐんじゃないのか? と、言いたくなるレベルだ。
このルールは、来年からは少し変えた方が良いかも知れないな……うむ。
取り敢えず、バアルや剣聖杯を運営している連中に、軽く意見して置こうか。
今年は……まぁ、もう遅いから……このままやって貰うしかないのだが。
閑話休題。
こうして新しく出来上がった三回戦以降の組み合わせが決まった結果、パラスの対戦相手はチャンピオンに決定していた。
もし、パラスが負け、漢気のある彼が勝利していたのなら、さっき述べた謎の忖度ルールが働いて、チャンピオンの対戦相手は変わっていたとは思うのだが……悲しいかな? パラスは別のクラスの人間である為、再度行われた組み合わせ抽選にてチャンピオンと対戦する羽目になってしまうのだ。
この結果、パラスはチャンピオンに惨敗。
残念ながら、今年の剣聖杯は予選落ちとなってしまうのであった。
「……あんな化け物が、まだ居たなんてな……」
最終的に担架で運ばれるまでボコボコにされてしまったパラスは、救護班に運ばれながらも呟く様に口を動かしていた。
結果的に予選落ちと言う、不本意な結果に終わってしまった訳なのだが……不思議と、顔は爽やかで……なんとなく、晴れやかな表情に見えた。
もしかしたら、パラスなりに充実した戦闘だったのかも知れない。
もしそうであるのなら……それがせめてもの救いとでも言うべきなのだろうか?
……思えば、チャンピオンだってアシュアによる反則的な薬剤を投与した、アホみたいな修行をしなかったのなら、パラスが勝っていたかも知れないレベルだった。
そう考えると、私がきっかけでパラスは負けたと述べても過言ではない。
直接的な素因は私ではなかったかも知れないが、アシュアがチャンピオンを鍛えようとした発端は、間違いなく私にあったのだから。
しかしながら、チャンピオンの努力を反則だ!……と、罵る事もしない。
何故なら、そのトレーニングは過酷を極めていたからだ。
普通の人間の精神では、到底耐える事が出来る様な内容ではない。
二十回以上も死の狭間まで自分を追い込むまでに、超ハードなトレーニングを積んで来たのだから。
それはそれはもう……文字通り血の滲む様な修行であったに違いない。
そして、それらの辛いトレーニングに耐えた末に、今のチャンピオンが居るのだ。
この努力は、まさに鋼の精神を持ったチャンピオンだからこそ成し遂げた成果だ。
故に、私はチャンピオンの実力も決して侮らないし、本物だと思っている。
パラスを破ったチャンピオンは、これで本戦出場を確たる物にした。
残る本戦出場枠は……三つだ。
二つ目の出場権を勝ち取ったのは、続く三回戦の二戦目で勝利したルゥ姫である。
普段はアリンと人形トークに華を咲かせ、少女趣味を無秩序にブン巻いては……母親のルミと同等か、それ以上の天然さを見せ付ける癖に、実は母親より、ずっとしっかりしている淑女であると勘違いまでしている、残念姫でもあるんだが……どうしてどうして、巧みな魔術の腕前は本物だ。
流石は魔道大国ニイガの王女……と言うべきだな?
行く行くは女王になるルゥ姫の実力は、対戦相手を圧倒していた。




