学園祭と剣聖杯と勇者様【7】
アリンやルゥ姫の場合は、前回の戦績がないからな?
もう、完全に予選からのスタートとなる。
……まぁ、あの二人なら余裕で突破して来るとは思うけどな?
そんな事を考えていた時だった。
「そう言えば、フェル君も剣聖杯に出場するんだよねぇ……ちょっと楽しみな様な、怖い様な……なんか、不思議な気持ちになるよ」
フラウが、顔でも複雑そうな表情を作って口を動かしていた。
……ああ、そうか。
剣聖杯は全校生徒が出場する大会だ。
そこらを加味するのであれば、チャンピオンだって出場する事になるだろう。
ふぅ〜む……。
そう考えると、アリンやルゥ姫の二人は、最初の予選から強力なライバルと戦う事になる可能性があるのか。
「なるほど、ちょっと心配になって来たな……チャンピオンは穏やかな性質を持っていると分かっているが、試合の類いになると、無駄に本気を出そうとするかならなぁ……」
そして、アリンもアリンで強烈な負けず嫌いだ。
すると……どうなるだろう?
二人の強烈なパワーが、予選会場でもある学園の体育館で激突した日には、恐ろしい事になってしまうのではなかろうか……?
「アリンには、本線通過が出来る程度に頑張れと言って置こう……そうしないと、学園の体育館がとんでもない事になる」
「……う、うん……そ、そうだね……」
真剣な顔になって言う私の言葉に、フラウも顔を痙攣らせながら頷いた。
……きっと、私の言わんとする意図を汲んだのだろう。
チャンピオンの方は、パワーアップしてから以降の戦闘とかを見ていないかも知れないが、アリンの方はフラウも重々承知している。
よって、アリンが本気を出してしまった日には、体育館がアッサリ崩壊してしまう程度の予測は、簡単に付いてしまったのだろう。
……まぁ、一応は戦闘を行うと言う前提で体育館を使用する為、一定の強力な魔導防壁の様な物を張ってはいると思うのだが、私の予測に間違いがないのであれば、ほぼ確実にあってない様なレベルの防壁になってしまうんじゃないのかなぁ……と、考えている。
世間一般では、かなりレベルの高い大会と言っても……人間を捨てているとしか、他に形容出来ない様な二大怪獣の戦闘を前提とした防壁を張る事は無理だと思うし……ぐぅむ。
「あのさ? もしかしたら、とんでもない事になるかも知れないから、リダが体育館の防壁を張る手伝いをする……ってのもアリなんじゃない?」
……ふむ。
なるほど、確かにそれは一理あるな!
「たまにはフラウも良い事を言うな? 早速、後でバアルに言って置く事にしようか!」
「たまには余計だと思うけど……まぁ、そうだね? 四時限目の昼休憩にでも聞いてみよう?」
その後、クラス予選の魔導防御壁を、私が張る事になった。
◯◯●●●
そんなこんなで、数日後にクラス予選が開始される。
少し前にも述べているが、一次予選は八人一組で行われる総当たり戦で、グループ・リーグ制になっている。
この八人の内、上位二名が勝ち抜け。
つまり、まずはこのグループの中で二位以上になるのが、目下の目標となる訳だな?
「お〜! やってやるんだお〜! 最初から全力全開で頑張るんだお!」
これこれ、アリンちゃんや……。
あなたが普通の生徒を本気でぶちのめしてしまったら、相手は病院送り所か葬儀屋送りになってしまうぞ?
「そこまで気合を入れなくても良いぞ、アリン? もっと肩の力を抜いて行け」
「分かったお! 肩の力を抜いて……足の力を入れるんだお!」
これこれアリンちゃんや……。
まぁ、三歳児にとって、こう言うイベントは高揚感を受けるお祭りの様な感覚なのかも知れない。
他方、その頃。
「マム……もう、私はダメです……棄権しても良いですか?」
真っ青な顔をして、身体を無駄に震わせているルゥ姫がいた。
まぁ……姫だからな?
普通に考えたら、血の気の多い連中を相手に、喧嘩上等の戦いなんぞした経験がなかったのかも知れない。
……つか、普通はしないか。
だからと言うのも変な話ではあるのだが……ルゥ姫は完全に及び腰になっており、顔もまた……なんてか、死人染みた勢いで蒼白になっていた。
「大丈夫よ、ルゥ? あなたはそこらの石ころ同然の生徒より、全然強いわ? 安心して? 相手が誰であろうと、五秒立っていたら私の方から褒めて上げたい程だから」
ガグブル状態だったルゥに対し、ルミは柔和な笑顔で周囲に喧嘩を売ってるとしか、他に形容出来ない様な台詞をほざいていた。
きっと、ルゥの中にある恐怖心を、少しでも緩和させる為に、敢えてこんな台詞を口にしているんだとは思うのだが……もっと、言葉を選んだ方が良いと思うぞ?




