学園祭と剣聖杯と勇者様【6】
相変わらず、安定のヘタレっぷりだった。
まぁ、お姫様なのだから、痛いのが嫌なのは分かるんだけど……まぁ、此奴は根本的に根性がない。
余談になるが、前大会四位だったルミにも、一応のシード権が発生している。
ただし、予選を全免除される訳ではなく、最終予選だけは行う必要がある。
尤も、最終予選でもある学年代表のトーナメント戦の三回戦から登場する為、ルミはその三回戦で勝利すれば、本戦出場が確定する為……まぁ、事実上の予選免除と述べても差し支えはない。
この大会は、全校生徒がエントリーする大会なので、クラス一次予選・二次予選・学年予選トーナメント……と、かなり長い道のりを経て、漸く本戦への切符を手に入れる事が出来る。
尚、一次と二次予選は、人数が多いのでグループリーグ戦だ。
総当たりで行われ、一次リーグは八人で、二次リーグは五人で行われる。
それぞれ一位と二位の上位2名が予選を勝ち抜け。
最終的に四人まで候補が絞られて行く。
そして、学年予選のトーナメントへと進出し、このトーナメントの三回戦を勝ち抜くと、本戦の出場が決まる。
ルミの場合は、最後に述べた『三回戦を勝ち抜く』と言う所からの参戦となるので、予選は限りなく免除……と言った感覚だ。
更に言うのであれば、三回戦までは『同じクラスメートとは対戦しない』とか言う、良いのか悪いのか良く分からないルールが適用されている為、三回戦で当たった相手がたまたまアリンの様な驚異的なモンスター……なんて事もない。
……ま、ここに関して言うのなら、三回戦以降になると当たる可能性があるし、本戦にはその様な妙ちきりんな忖度ルールなどないので、結局は誰と当たっても全くおかしくはなかったのだが。
……その結果、
「……はぁぁぁぁぁ……」
心の底から……つか、お前って予想以上に肺活量があるんだな? って言いたくなる様な強くて重い溜息を、深々と口から吐き出すルミの姿があった。
「別にさ? 私的にはお祭りを楽しめれば良いんだよ? 剣聖杯もさ? 出場する側じゃなくて、どっちかと言うと観戦者に回りたいの? 分かる? 観戦席でポップコーン食べたいの! お菓子とジュース持っていたいの! ねぇ、リダ? 私の気持ち……分かるでしょっ⁉︎」
「……ジュースとお菓子の部分が、エールとツマミに変わるのなら、その気持ちが分かるぞ?」
「そうでしょう! リダはちょっとアレだけど! 私の持っている、この痛烈な気持ちを分かってくれたのなら、もうそれ以上は望まないよ!」
ちょっとアレ……って、なんだよ。
私は、悲痛で顔を大きく歪めながらも、悲劇のヒロインを無駄に演じていた根性無しのお姫様に、ビミョーな呆れを抱いていた。
だって、ルミの場合……ただのヘタレ姫なんだもの。
しかしながら、ルミのヘタレさ加減は今に始まった事ではないし、今後も続く物なのだろう。
まぁ……気にした所で、何も始まりはしないか。
そんな事を考えつつ、私は軽く横目でルゥ姫の方へと視線を向けた。
その先には、キラキラした目でルゥ姫と同じ人形を抱っこしている愛娘の姿が。
………。
アリンの奴、まぁ〜たルゥ姫から新しい人形を貰ったな?
全く……もう、部屋に一杯あるだろうに……。
「……やれやれ」
私は頭痛薬が恋しくなったかの様な顔になって嘆息した。
正直、本当に頭痛薬が恋しくなったよ。
ルゥ姫に悪気はないのだろうし……同じ、人形趣味を持っているのなんて、三歳児のアリン程度しか他に居ないからこそ、アリンにだけは色々と良くしてくれているんだと言うのも分かるし……泉の如く無尽蔵に、次から次へと新しい人形をアリンにプレゼントしている側面には、庶民の視点からすれば無限にも等しいニイガ王家の財源が根底として存在しているからこそなのだろうから……お金に関して言えば、特段心配もして居ないんだけど……。
「あたしゃ……アリンの将来が心配で仕方ないよ……」
三歳にして、ここまでの人形マニアと親友になってしまったのなら……その顛末はどんな物になってしまうと言うのだろう?
ともすれば、ある程度の大人になってしまえば、アリンもお人形を卒業してくれるかも知れないが……もし、卒業しないまま十代……そして、二十代を迎えてしまった場合は、どうなってしまうのだろう?
きっと、アリンの部屋は人形で埋まってしまうんじゃないのだろうか?
「……出来れば、趣味は程々に楽しんで貰える様な大人になって欲しいんだが……」
私は誰に言う訳でもなく独りごちた。
……そんなアリン達であるが、早ければ明日にも予選を行うとの事だ。
さっきも述べたが、全校生徒が参加する関係もあって、その人数は多く……そしてかなりの予選を消化しないと行けない。
この関係もある為、本戦が開催される一か月前には、もう最初の予選が始まりを迎えるのだ。




