学園祭と剣聖杯と勇者様【3】
「……で? 私に手伝って欲しいと言うのは、その『勇者の試練』とか言うのか?」
「ズバリそうです!……そうなのですが……困った事に、どんな内容なのか私にはサッパリ分かりません!」
だから、なんでお前はそんなに堂々と胸まで張って言うんだ?
やたら溌剌とした顔で、キッパリと口にしているユニクス。
コイツは、本当に勇者なんだろうか? そんな事を嘯きたくなる。
ただ、勇者が悪魔転生からの勇者になっている事だけは間違いない。
何故なら、勇者としての天啓を受けている所を、私はその場で見ていたからだ。
……きっと、そうじゃなかったのなら、絶対にユニクスが勇者だと言われても信じなかったに違いない。
しかしながら、ユニクスは勇者としての天啓を受けつつも……以後、勇者らしい事をしたのか? と言えば、全く以って行って居ない。
普通に学生として学園に通ったり、私と一緒に高難度ダンジョンに向かったり……と、おおよそ勇者らしい活動なんぞ、塵も芥も行っていないと言うのが現状だった。
尤も、そこはユニクスが悪いと一概に言う事は出来ない。
理由は簡素なものだ。
ユニクスへと天啓を与えた神が、勇者を導く事なく放置していたからだ。
……ともすれば、あまりにも酷い日常を送るユニクスを見て、神様が愛想を尽かしていたのかも知れない。
だが、ユニクスの話を聞く限りであると、
「今度の学園祭……剣聖杯へと、まずは出場しなさい……そうすれば、勇者としての試練を知る事になるでしょう……と、やたら上から目線で言って来る、スカした女に言われました」
そのスカした女はきっと女神様だと思うぞ? と、ツッコミを入れたくなる様な台詞を、臆面もなく答えて来た。
お前を勇者にした神様に、どうしてそんな口がきけるのかは、私的には地味に謎ではあったのだが……まぁ、罰が当たるのはユニクスなんだろうから、そこは良しとして。
「これらを総体的にまとめますと……私は剣聖杯で、何かすると……勇者の試練とか言う、良く分からない面倒な事に巻き込まれてしまうと言う事です!」
私からすれば、お前は勇者なんだから、勇者の責務として試練を受けるのが当然なんじゃないのか? って感じのツッコミを大いに期待しているんじゃないのか? と、徐に叫んでしまいたくなる様な台詞を、臆面もなく……むしろ、かなり真剣になって宣言するバカ勇者の姿があった。
私的に言うのなら、神様が勇者の選定を間違えたんじゃないのか?……そうと、真面目に言いたくなるシーンでもあった。
実を言うと、この世界には結構な数の勇者が降誕し、歴史に名前を載せていたりもする。
理由は色々あるのだが……まぁ、ここはシンプルに説明しよう。
この世界は、とってもファンタジックだ!
だからと言うのも変な話なのだが、普通に神様が降誕する!
通常、神様と言うのはなんらかの銅像だったり? 神殿で祀られているのが普通かも知れないが……この世界の場合は普通に神様本人がみんなの前に出現するのだ。
神様本人がやって来て、自分の宗派の喧伝をする……などと言うファンタジックな光景は、この世界に限って言うのであれば、決して夢物語でもなんでもない。
ここらかも分かって貰える様に……神様は歴史の中でもファンタジックな現実を私達に見せては、当たり前の当然の様に史実を彩っている。
その中の一つに勇者もまた、ちゃんと存在しているのだ。
その時代によって、勇者ではなく英雄になっている時もあるが……まぁ、そこは色々と面倒になるので、今回に限っては一律に『勇者』と言う事にして置こう。
……ともかく、勇者は私の知る限りで百年に一人程度の割合で生まれている。
これは飽くまでも平均値だな?
多い時は、数十年単位で一人の時もあるし、全く現れない時は数百年以上も現れない時だってある。
しかし、勇者が出現する時は、共通して『世界の危機』が必ず発生する。
ここに関して言うのであれば、もはや確定事項なのではなかろうか?
詳しい事を知っている訳ではないし……私は歴史の史実を多少勉強しただけのレベルなので、明確な物を知っている訳ではないのだが……神からの天啓を受けた勇者が、この世界に誕生した時……必ず世界規模の災厄が発生するのだ。
その災厄の内容は、その時によって異なり……まさに千差万別と表現しても申し分ないレベルではあるのだが、共通して言える事は……勇者が生まれた時点で、なんらかの厄災が既に迫って来ていると言う事だ。
……そう考えると、やっぱりユニクスで大丈夫なんだろうか?
うむぅ……。
やっぱり神様はちょっと選定者を間違えたんじゃなかろうか……?




