学園祭と剣聖杯と勇者様【1】
秋もぼちぼち深まり、クソ暑さもかなり静まって来た。
これから先は、無駄に寒くなって行くんだろう……うむ。
私は、暑さよりも寒さの方が得意ではある……あるのだが。
だからと言って、寒さを感じない訳ではないのだ!
よって、やっぱり寒いのは寒いので嫌だ!
なんで、こう……無駄に寒くなるんだ?
程良い所で、温度をストップしとけよ? そこまで寒くなる必要とか、全然ないんだよ!
……と、まぁ。
心情的に、こんな事を言いたくなる様な季節になって来た。
私的に言うのなら、熱燗で一杯やるのが美味しい季節……と、今の私は学生だったな!
じゃあ、あったかいエールにして置こうか!
………。
否、エールも酒か。
いやいや、でもあんなの大したアルコールとか入ってないし、ジュースだろ?
でも、あったかいエールとか飲みたいかと言われたら……うん、無理だな!
「か〜たま? 朝からお酒の事ばかり考えてないで、早くガッコーに行くお〜? もう、ルミちゃんとルゥちゃんが、部屋の入り口で待っているんだお〜?」
程なくして、アリンが呆れ眼のまま私へと口を開いて来た。
なっ!
どうして分かった⁉︎
アリン……もしかして、お前は……新しい能力に目覚めたと言うのかっ⁉︎
「はは……か〜たまも朝からお酒を飲む事を考える程、のんベぇじゃないさ! ただ、ちょっと冷酒の季節は終わったな……と、思っていただけさ?」
「結局、お酒の事を考えているんだお……アリンは、手を震わせたか〜たまの未来が見えて来て仕方ないんだお……」
三歳にして、そこまでの心配をするんじゃないよ! アリンちゃん!
「安心しろ、私はそこまで落ちぶれないから!」
胸を張って断言する私がいたのだが、アリンの瞳から懐疑の念が消える事はなかった。
くそ……アリンは、もう少し親を信じる心を持った方が良いと思うぞ。
なんにしても、部屋の入り口にルミやルゥの二人が来ているのなら、早く行ってやらないと……だ。
余談になるが、現在は朝だ。
ボチボチ学園へと向かう時間だな?
既に朝食を食べ終わり、色々と支度も終わっていた私とアリンは、いつでも登校出来る状態にはなっていた。
だからと言うのも変な話だが、
「よし、じゃあ学園の方に行こうか。アリン? 忘れ物はないな?」
「もちろんだお! 忘れ物はないお! ただ、ルゥちゃんがいつも持って来ている新しいハーピーちゃんが欲しいお!」
そう言う物を学校に持参しては行けません!
……つーか、相変わらずルゥ姫は、教室に人形を持ち込んでいるんだな……まったく、神聖な学舎を何だと思っているのやら……。
「ハーピーちゃんなら、こないだ買ってやったろ?」
「あれじゃないんだお! 声が出る、新しいのがあるお! しかも、すんごぉぉぉぉく可愛くなっているんだお! あれが良い!」
アリンは、無駄に鼻息を荒くして、私へと強請っていた。
この調子だと、次に玩具売り場に向かう事があった時は、かなり注意が必要だな……。
「そんなの同じだろ? ハーピーちゃんはハーピーちゃんなんだから……」
「ふぁっ⁉︎ か〜たまには分らないの! 旧ハーピーちゃんと新ハーピーちゃんの違いが! それは、眼科に行った方が良いんだおぉぉぉぉっっ!」
……ああ、はいはい。
お前の言い分を鵜呑みにしてたら、この部屋が人形だらけになってしまうわ。
私は、テキトーに娘をあしらいながらも、鞄を持って入り口の方へと向かった。
アリンの話を全部聞いていたら、確実に遅刻するに決まっているからな?
「か〜たま! ちゃんとアリンの話を聞くお! これは、テストに出る位、大切な事なんだおぉぉっ!」
どんなテストだよ?
人形のテストか?
そんな試験を、この学園でやり始めたら、私は学園長室へと殴り込みを掛けるね!
アホな愛娘の台詞もそこそこに、
「おはよう、ルミ」
私は、自室の入り口で待っていたルミと、
「おはよう、ルゥ姫。後生だから、これ以上アリンに人形の新情報を流すのをやめてくれないか? アリンが次から次へと欲しがって困るんだよ……」
その隣にいたルゥへと苦笑いのまま挨拶をしてみせた。
今のアリンが、無駄に新しい人形を欲しがる根本的な要因を生み出したのは、間違いなくルゥ姫だからだ。
そして、今日も……さりげなぁ〜くバックの中に新しい人形を忍ばせているのだろう。
「そ、そこまでアリンちゃんに自慢とかしてませんよ! ええ……ただ、私は、そのぅ……他に自慢出来るクラスメートがいないだけです!」
……普通に矛盾した台詞を、私に言っていた。
「あ、そして挨拶が遅れました。おはようございます」
間もなくペコリと頭を下げるルゥ姫。
言葉の後に、しれっと挨拶を付け足して来る辺り……まぁ、なんて言うか、天然姫の娘だけはあるな……と。




