打倒! リダ・ドーンテン!【20】
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チャンピオンとの戦いが終わり、私は元の教室へと戻って来た。
どうやら、あの空間がチャンピオンの練習場だったらしく……数分程度の戦闘をしていた筈だと言うのに、教室へと戻って来た時間は、ほんの数秒しか経っていなかったらしい。
……ふむ。
なるほど、これはちょっと不思議な気持ちになるな。
恐らく、数年あっちで過ごしたとしても、教室に戻って来るのはほんの数秒程度に過ぎないのだろう。
これらを考慮するのであれば、もはや時間の概念なんぞ無いに等しい話になるな?
「時間が足りないとぼやいている人間には、かなり便利な装置かも知れない」
……ふと、こんな事を、誰に言う訳でもなく呟いたのだが……思えば、数年が数秒になってしまう特殊空間に引き篭りが入ってしまった日には、絶対に大きな悲劇が発生してしまうに違いない。
やはり、この魔導器は危険だ……絶対に商品化及び、大量生産化させない様に、強くアシュアやバアルへと言って置く必要がありそうだな!
……ま、それはそれとして。
チャンピオンは、今後も私達のクラスメートとして一緒に勉強をするらしい。
ただ、私に負けた為、交際の申し出は約束通り白紙撤回するそうだ。
まぁ、私としては少し勿体ない様な気がするのだが……う〜ん、どうなのだろう?
飽くまでも個人的な目で見る限り、チャンピオンは性格も外見もとびっきり優良な男子だ。
アシュアのメチャクチャな特訓により、その能力も大幅に上昇させている。
このまま冒険者協会に入れば、レジェンド・ランクだって夢ではないだろう。
……あれ?
もしかして……オチ、なくね?
…………。
そこまで考えてから、私は気付いた。
否、悟ったのだ。
今回のオチを!
つまり……だな?
いつもいつも、何かあると警戒し……結果、チャンピオンと付き合う事を断ったりしたのだが、実は断ってから『正真正銘、本物の美少年である』と言う事実に気付いた!
……ってオチだ、これ!
裏の裏は表だったと言う事か……。
くそ……今までが今までだっただけに、思い切り不意打ちを受けた気分で一杯になっていた。
果たして。
「リダもバカだね〜? あんなに格好良くて性格も良くて、色々と気遣いも出来る誠実なイケメンをフルなんてさ〜? お陰で、クラスの女子はリダの事を思い切り憎んでるよ? そりゃ、もう凄い勢いで!」
……なんて台詞を、陽気な口調とセットでほざいて来たフラウの言葉が真実であるとするのならば、私はクラスの女性陣を思い切り敵に回してしまったと言う事になってしまう!
結局……付き合わなくても、そうなるのかよっっっ!
じゃあ、何か?
私は、どっちに転んでも、クラスの女子に恨まれる役になっていたと言う事かっ⁉︎
それ……理不尽過ぎないかっ⁉︎
「……ま、良いじゃない? 私はルミやリダの事を親友だと思ってるし? フェル君はウチのクラスに通ってくれるって事だから? 私にもチャンスがあるって事だしね!」
フラウは、これ以上ないまでのハイテンションさで、私へと上機嫌に口を動かしていた。
……うむ。
まぁ、良しとして置こうか。
恐らく、あの戦いで私が負けてしまい……チャンピオンと交際をする事になってしまったとするのなら……きっと、フラウは今の様な態度を私に示さなかったであろう。
周囲に居る女子のクラスメートは無理だったかも知れないが……しかし、それでも私にとっては親友とも呼べるフラウをしっかりと味方に付ける事が出来たとするのならば、決して私の選択は間違いではなかった……んじゃないのかなぁ……多分。
取り敢えず、選択は間違ってなかった!
……と、言う事にしよう!
人間、前向きな方が色々と良いと思うからな!
「ふふ……さぁて、どうアタックしよ〜かな〜? やっぱり、ここは女子力を見せるべき? ううん、違うな? フェル君は戦う女子が好きそうだから……もっと魔導の腕を磨くか!」
……今のチャンピオンは、お前が何倍も強くなったとしても、全然歯が立たないレベルにはなっていると思うぞ?
こんな台詞を言おうかと思った私であったが……その言葉は、喉元辺りで引き止まった。
なんとなくだが思うのだ。
きっと、あのチャンピオンは努力する者を褒める筈だ。
フラウの恋が実るかどうかは置いておくとしても……フラウのモチベーションを向上させる切っ掛け程度は作ってくれるんじゃないのかな?……そう思う私がいたのだ。
そうであるのなら、フラウには余計な事を言わずに、暖かく見守る事にしよう。
……ま、フラウがチャンピオンと付き合う事はないと思うけどなっ!




