打倒! リダ・ドーンテン!【16】
「それにしても懐かしいな……ここは、全く変わってない様に見える」
アシュアの説明もそこそこに。
未だ踏ん反り返っているアシュアがいる中、チャンピオンはかなり懐かしそうな顔になって口を動かして見せる。
「当たり前だ……チャンピオンが、どれだけの時間を夢空間で歩んで来たのかは知らないが……こっちの時間では、ほんの一瞬だ。時間的に数秒あったかどうか……って所だな?」
「……っ⁉︎ 通りで、周りのみんなが全く変わってないと思った訳だ。つまり僕だけが、『一年以上』もの時間が経過していると言う事ですね」
チャンピオンは驚いた顔のまま答えた。
……一応、そんな感じの事をアシュアも説明していたろうに。
やっぱり、妙な所が抜けている様な気がするな?
……何はともあれ。
「私を倒す為に、かなりのトレーニングを積んで来たのだろう? それなら、早速……修行の成果とやらを見せてはくれないか?」
私は好戦的な笑みのまま答えた。
その時だった。
「はぁっっ!」
アシュアが謎の奇声をあげた。
どうしたんだろう?
とうとう気でも狂ってしまったのだろうか?
いや、元からアシュアは精神外科の先生がサジを投げてしまう程度には狂った性質の持ち主だったな。
……と、自問自答していた辺りで、私は気付いた。
周囲にあった光景が、ガラリと変わっていた事に。
「今のフェル君は危険です。魔王リダに匹敵するまでの強力なステータスを誇示しておりますからね? 教室で二人のパワーが炸裂したら……学園はおろか、首都トウキが焼け野原になってしまい兼ねません。そんな事をしたら、私がバアル様に怒られてしまいます」
突発的に激変した周囲を見回していた頃、アシュアが私へと口を開いて来た。
……ふむ、なるほど。
確かに一理あるな?
見れば、今の空間は……いつぞやの並行世界でN65パラレルと戦った時に見た、真っ白い空間に酷似した場所だった。
強いて言うのであれば、周囲は黒で塗りたくられた、ダークな空間であったと言う事だろうか?
ただ、暗闇空間と言う訳ではなく、ちゃんと目で見る事が出来る。
比喩的に言うのなら、モノクロの世界……とでも言うべきか?
全体的に言うのなら黒がメインで、一部の部分が白になっている。
モノクロと言っても、色彩の分配が逆転していると表現しても過言ではないだろう。
何にせよ、しっかりと物を認識する事が可能な世界であるのなら、私は一向に構わない。
そして……
「ここなら、私も全力を出しても問題ないと言う事か」
私はニッ! っと、笑みを作りながら答える。
超龍の呼吸法もレベル7まで上昇させると、拳を振るう一撃の威力が核弾頭にも等しい威力になってしまうからな……とてもじゃないが、街中で本気を出す訳にも行かない。
尤も……レベル7を発動した日には、数秒で全部のエナジーが枯渇してしまうだろうが。
「……さて、お手並拝見……と行こうか?」
答え、私は構えて見せる。
同時に、補助魔法と補助スキルを発動させた。
超攻撃力上昇魔法 レベル99!
超防御力上昇魔法 レベル99!
超身体能力上昇魔法 レベル99!
超龍の呼吸法 レベル5!
ズドンッッ! と、一気に能力を上昇させた。
「……っ!」
私の状態を見て、チャンピオンは驚いた顔になる。
……まぁ、この補助スキルと補助魔法を発動させた姿を見せたのは、これが初めてだったからな?
驚くのも無理はない。
「驚いた……リダさん。あなたが『大した事なく』感じている。これがトレーニングの成果なのか」
……はぁ?
ポカンとした顔のまま、チャンピオンは言っていた。
オイオイ、ちょっと待ってくれよ?
「ハッタリをかますんじゃないよ? この状態は、通常時と比較したのなら、話にならないレベルまで能力が上昇しているんだぞ?」
「ええ……もちろん知ってます。リダさんの内側で『猛烈にエナジーが増幅された』のは、私も『感じました』から」
「……っ⁉︎」
なんだと……?
私は愕然となった。
チャンピオンが、アシュアのトレーニングを受ける前までは、私のエナジーを感じ取る能力など持っては居なかった。
しかし、今のチャンピオンであるのなら、私のエナジーをしっかりと感知する能力が存在しているのだろう。
それも、単純に相手のエナジーを感じ取る能力ではない。
私の場合は、全エナジーを体内に封じ込める事が可能だ。
言うなれば、私のエナジーを感知する為には、私の内部に干渉し……かつエナジーを知る必要があるのだ。
エナジーが爆発的に増える事で、周囲に衝撃波を撒き散らしている時とは、話にならないレベルで感知するのが難しい。
だが、それでもチャンピオンは私のエナジーをしっかりと感じ取っていたのだ!
………。
これは、ちょいとばかり、一筋縄では行かないなぁ……。




