打倒! リダ・ドーンテン!【10】
「……で? 勝負するのか? 仮にやっても、お互い引き分けになるのが関の山だぞ?」
少し間を置いてから、私はチャンピオンへと言う。
「……えぇと、はい……やめましょう」
チャンピオンは少し考えてから辞退する感じの台詞を口にして来た。
私の言わんとしている意味を分かってくれたのだろう。
この演習には、最高得点がある。
さっきのアリンが取った100点がそうだな?
そして、この得点より上は存在しない。
よって『互いに100点を取ったのなら引き分けになる』訳だ。
もっと言うのなら、
「リダさんも、簡単に取るんだろう? 100点を?」
そうと答えて来たチャンピオンの言葉に、
「当然だ。今回は好きな魔法で良いらしいが……特定の魔法縛りであっても良いぞ? どんな魔法であろうと問題なく満点を取れるからな?」
私はさも当然と言うばかりに答えた。
この言葉は、もちろん誇張された物でもなければ、ハッタリでもない。
本当に言葉通りの結果になる。
なんなら、この上であっても全く問題ないぞ?
当たり前の当然の様にクリアしてやろうじゃないか!
「……参ったよ。リダさんって凄い魔導師なんだね? 伊達に魔導を先行している訳じゃな買ったのか」
「魔導は、正直に言うと余り得意ではないぞ?……まぁ、最近は『苦手を克服する為に』敢えて魔導を使っているせいか、結構得意にはなって来たけどな?」
「………」
……あ、またチャンピオンがフリーズしてしまった。
しばらくフリーズしていたチャンピオンは、
「どうやら、今の僕では……まだまだリダさんに挑戦しては行けなかった見たいだ……悔しいけど、現実は受け止める事にするよ」
かなり項垂れた顔になって口を動かして行った。
……う。
何だろう……妙に良心の呵責を受けてしまう様な……悲しい顔だ。
なまじ、顔が良いからな? このチャンピオン。
しかも、性格が悪いとか頭が悪いとか言うオチもないからな?
……ま、頭は少し悪そうだけど。
けれど、いつぞやの美少年……いや、あれは美少女だったな? ともかく、卵を研究していたお馬鹿さん二人と比較したのであれば、話にならないまでに利口なオツムをしているだろう。
これら諸々を総合的に判断するのであれば、友達にならなっても良いレベルの好青年だった。
恋人になるとか言うのは、まだ話が違うけどな!
だって、こいつの取り巻きは危険そうだし!
私のクラス内だけを取っても、マジで陰湿なイジメに遭いそうだし!
つか、フラウがマジで私を裏切りそうで怖いしっっ!
ともかく、知人や友人と言う間柄であるのなら、私としても快く友人として迎え入れたいと思える程度には良い男だと思う。
それだけに、思い切り悄げてしまう態度を見ると、少しばかり申し訳ない気持ちにさえなってしまう。
「まぁ……その、なんだ? 世の中には、色々な強者が居る。それに、チャンピオンはまだ若いんだ。もっと頑張って強くなったら……また、私に挑戦しに来い! 待ってるぞ?」
励ます感じで、私はチャンピオンへと口を開いた。
「リダさん……あなたは良い人だね」
直後、感動したのか? 少し瞳を潤ませたチャンピオンが私の両手をがしっ! っと握って来た。
瞬間、私の背筋に悪寒が走る。
見れば、クラスの女子達が……うぁ……物凄い凶悪な……殺意の波動に目覚めているんじゃないのか? って言いたくなる様な眼光を猛烈に飛ばして来た。
きっと、その眼光の中にはフラウの物も混じっているのだろう。
実際に振り返って見るのは、ちょっと怖くて出来ないけど……確実にフラウの殺意も混じっている!
ああ、もう! マジで鬱陶しい!
これさえ無ければ、チャンピオンともう少し仲良く会話し、場合によっては私がチャンピオンに色々な戦い方を教えてやっても構わなかったのだが……こんな状態では、とてもやれそうにない。
だからして、
「いつの日になるか分からないけど……僕はきっと、確実にリダさんよりも強くなって、あなたにもう一回挑戦するよ! そして、リダさんに勝利したその時は……アナタへと交際を申し込むよ!」
強い意志を持って答えたチャンピオンの言葉に頷きを返すしか……ん? 何、交際っ⁉︎
ズバリ答えたチャンピオンの宣言により、周囲にあった温度が劇的に下がった!
お、おまっ! い、いきなりアホな事を言うんじゃないよっ⁉︎
そんな事を、公然と言ったら……私、ここに居る女子の誰かに毒殺され兼ねないじゃないかっ!
つか、フラウ辺りなら、マジで猛毒を私に盛って来るしっ!
……が、しかし。
その時、私は思った。
チャンピオンはこう言っていた。
『リダさんに勝った時は』……と。
つまり、勝てば良いのだ。
「よし、その意気は買ってやろう。私に勝てれば、お前と交際する事も吝かではないぞ?」
チャンピオンの向上心に水を差すのも悪い。
ここは敢えて、チャンピオンの言葉に乗ってやろう。
そう思って、肯定的な台詞を口にした時だった。
「聞きましたよ、リダ様! その言葉に間違いはありませんよねっ⁉︎」
突如して、体育館へとやって来た悪魔王がいる。
バアルの右腕的な存在にして、圧倒的な性格の濃さを見せる厚顔の悪女……アシュアだ!




