打倒! リダ・ドーンテン!【8】
もう、何か理由を付けては、無駄に挑戦して来るチャンピオンに辟易していた頃、
「フェル様〜! 見てて下さいね〜☆」
完全に『私は媚を売ってます』って感じの声音で明るく叫んで来るフラウの姿があった。
……まぁ、フラウは上位魔導師だからな。
演習とかが、自分のアピール・ポイントだと思っているに違いない。
その証拠に、フラウは鼻息を『フンスフンス』と、思い切り荒くした状態で四方のラインが床に付けられていた部分へと向かって行く。
そして、四方のラインがある場所の中央に立った。
……さて。
ここらで、軽く説明をして置こうか。
今回の演習を簡素に述べると『魔法を使って的当てをする』だ。
使用する魔法は、演習内容によって異なるのだが、今回に限って言うのなら使用魔法は自由だ。
簡素に言うのなら、自分の得意とする魔法を発動してくれて構わない。
だが、飽くまでも『魔導の演習』なので、魔法以外の物を使った時点で減点対象になってしまうぞ。
演習を受ける人間は、まずフラウの様に、四方のラインがあるその中央に立ち、その間にやって来る標的……つまり、的に魔法を当てる。
この標的なのだが、レベルが存在し、一定の得点を得るとレベルが上がる。
一例として、今やっているフラウの流れを見ると開始一分で、難易度のレベルが1から2に上昇した。
これは、レベル1の動きをする標的を的確に当てている為、既に1は合格点に到達していると判断されたからだ。
余談だが、各レベルは全部で10段階あり、それぞれ1〜3がランクD帯相当の魔導師で、2〜4がC程度、5〜6がB程度、7〜8がA程度。
そして、一応あるけど基本的には一部の人間にしか使わない9と10が、ランクS相当だ。
これよりも上のレベルはない。
まぁ、飽くまでも学生が練習でやる物だからな?
それよりも上の難易度を作っても、根本的に誰も使い熟す事が出来ない訳だ。
私は余裕で出来るがな!
閑話休題。
流石は上位魔導師と言うべきか?
フラウはドンドンとレベルを上げて行く。
余談だが、各レベルには得点が存在し、一定の時間内にレベルを上昇させると、得点は無条件で満点になる。
なお、満点は10点だ。
1〜10まで行い、それらをパーフェクトにクリアすると100点となる。
……さて、フラウの途中経過なのだが、ここまで全部をパーフェクトにクリアしている。
レベルは9だ。
「……へぇ、フラウちゃんって凄いね! 僕も頑張ろう! 魔王リダに挑戦する前に、まずはフラウちゃんに勝たないと!」
そして、私の真横にいたチャンピオンは少し唸り声を出しながらも、フラウの演習を見ていた。
その後……フラウは、最後のレベル10に到達したものの……最後の最後だけ上手に当てる事が出来ず、終了する。
得点は94点。
「……う〜ん、まぁ……ちょっと低いけど、こんな物だよね!」
演習を終えたフラウは、少しばかり不本意な顔をしてから、私の方にやって来たのだが、
「凄いよフラウちゃん! びっくりしたよ! 94点なんて普通には取れないと思うよ? だって、最後のはランクS相当でしょう? 最後の的なんて音速レベルじゃないのか? そこも当てるとか……天才だよ!」
間もなくフラウを全力で褒めちぎって来たチャンピオンを見て、
「えっ! そ、そう……かな? そ、そうです……よね〜? あ、あはは☆」
一気にテンションを上げていた。
中々に現金なヤツだった。
きっと、どんなに不本意な得点であったとしても、美男子の絶賛を受ければ、その場で御満悦の笑みへと変化してしまうに違いない。
相変わらず、良い性格をしているなぁ……と、胸中でぼやきを入れていた頃、
「……え? あの子、このクラスの生徒だったのかい?」
ポカンとした顔になって言うチャンピオンがいた。
チャンピオンの視線を軽く追うと……その先にいたのはアリンだ。
……まぁな。
ここは、高等学校に相当する学園だからな?
保育園にだってまだ入園しているか微妙な子が、この学園で生徒している時点でおかしな話ではあるんだ。
しかしながら、極々稀に……そう言う常識からは考えもしない様な、特殊な生徒がいたりもするんだよ。
「驚くのは分かるが、実はアリンも歴とした生徒だ。成績も良いんだぞ?」
「……そ、そうなのかい?」
私の言葉に、半信半疑だったチャンピオン。
しかし、私の言った事がまごう事無き事実である事を、わざわざ言葉で表現する必要はなかった。




