打倒! リダ・ドーンテン!【7】
文字通りの圧勝だ。
今回は『わざわざ』ファイティング・ポーズを取ったのを見てから攻撃してやったのだから、文句は言えないだろう。
そもそも『これから私は攻撃します』って感じの宣言をしてから攻撃……なんて、お行儀の良い戦いなんて、私はした事がない。
冒険者の戦闘ってのは、そこまでお上品には出来ていないからなぁ……。
これら諸々を加味するのであれば、私なりにかなりの譲歩をしたと言える。
あたしゃ、戦闘に一定のルールがあるとか、これをしたらダメとか、そう言う戦いとは無縁の生き方をしているんだよ。
もちろん、この学園の生徒に関してもそうだ。
これから冒険者になる者はそれなりに居るとは思うんだが、モンスターとの戦闘や盗賊団とかの戦いであった場合は、根本的にルールなんぞない。
勝者と敗者の違いは実にシンプルで……要は、生きていれば勝ち。
そこにルールなんて物など、最初から存在してはいないのだ。
……ま、とは言え、だ?
冒険者はアウトローではない。
戦闘にルールと言う物はないかも知れないが、人間である以上は一定のルールがある。
お行儀の良い戦闘をしろとは言わないが、人間が人間として、胸を張って生きて行ける程度の……言わば最低限の礼儀や、法的なルールぐらいは守りたい所だ。
……と、地味に話が長くなってしまったな?
そろそろ話を元に戻そう。
チャンピオンを一撃で沈めた私は、そのまま倒れたチャンピオンを床に置き、
「おい、そこらの女子。誰でも良い。チャンピオンが倒れたぞ? ここで甲斐甲斐しく介抱してやれば、コイツの気を引けるかも……」
知れないぞ?……と、言おうとした直後、倒れたチャンピオンの周囲にクラスの女子が怒涛の勢いで押し寄せて来た。
……本当、コイツらって。
見ればフラウが、目を血走らせながらもチャンピオンへと向かっていた。
バーゲン・セールで服を奪い合っているヤツだって、あそこまで節操無しの顔はしないんじゃないのかな?……とか、私は胸中でぼやきを入れてしまった。
以後は地味にカオスな状況が続いていた。
もう、我先にチャンピオンへと回復魔法を発動させ『私があなたを助けました』って事にしたいらしい。
……その浅ましさたるや、常軌を逸する。
人間……ああは、なりたくない物だ……。
「……やれやれ、だな」
見事な女子の人だかりが出来ている所を軽く見据え、私は呆れ眼のまま、端に引き寄せていた自席の机を元に戻し、これで少しは懲りてくれると良いのだが……と、倒れたチャンピオンの考えが変わる事を祈った。
◯◯●●●
「リダさん、勝負だ!」
……どうやら、私の祈りは届かなかった模様だ。
私の一撃をどてっ腹に喰らい、二時限目の授業を受ける事が出来なかったと言うのに……しかし、次の三時限目……魔導の実習だった関係で、学園の体育館へと移動していた私達がいた頃、体操着に着替えていたチャンピオンが、再び私に勝負を挑んで来た。
さっきので懲りてくれよ……全くもう。
取り敢えず分かった事は、みんなの前で負けたとしても、別に恥であるとは『考えていない』と言う事だ。
正直、ここにはちょっと驚いた。
チャンピオンである事を『誇りに思っていた』なんて事を、しれっと言ってたから、てっきり自分がチャンピオンである事で、マウントを取りたがるヤツかと思っていたのだが……どうやら、そうでもないらしい。
実際に、チャンピオンになるまでの間、何回かの敗北も経験して来たし、悔しい思いもして来たと言う。
何度も挫折しそうになり、頓挫の憂き目を経験しつつ……しかし、それでも不屈の精神でチャンピオンの栄光を手にして来たんだそうだ。
そう考えると、コイツもコイツで苦闘の半生を歩んで来たのかも知れないな。
……まぁ、そこは良い。
苦闘の半生を歩んで来た事も認めるし? 努力の末にチャンピオンと言う栄光を手にした事も認めよう。
……だけど、しつこいのは勘弁してくれないか?
「今は授業中だ。魔導実習の最中だぞ」
私は苦い顔のまま、チャンピオンへとぼやきを入れると、
「もちろん、授業は授業として受けるよ? その上で勝負がしたいんだ! つまり、今は魔導実習。そして、今回の実習は動いている標的に向かって精密に魔法を発動させる演習だよね? それなら、勝負はこれにしよう」
チャンピオンは意気揚々と答えて来た。
……はぁ。
「良いか、チャンピオン? お前はまだ編入したばかりだから、先行学科が決まってない。よって、魔導学科にするか、剣士学科にするかを決める為に見学する権利がある。だから、この演習を受けるのは分かる……分かるが、これは単なる演習だ。別に優劣を決める競争ではない。なんでもかんでも勝負の題材にするんじゃないよ」
私は辟易した顔になって言う。
何がしたいのか分からないが……尽く、人に挑戦状を叩き付けて来るのだから……真面目に勘弁して欲しいのだが?




