打倒! リダ・ドーンテン!【6】
すっかり萎縮している中、
「はは……すまない……ちょっとやり過ぎてしまった様だ。申し訳ないが、誰か回復魔法を使える人は居ないかい? もしかしたら強く打ち過ぎてしまったかも知れないから」
ちょっと余裕のある笑みなんぞを浮かべて、爽やかに口を動かすチャンピオン。
当人は、格好良い好青年をアピールしているのかも知れないが……私の目にはそうは映らなかった。
きっと、コイツは『クラスでも最強の男子を秒殺出来る、俺ってTEEEEEEE!』って感じの余韻に浸っているのだろう。
地味にムカつく。
「……やれやれ」
仕方がないので、私が男子生徒に回復魔法を発動してやった。
治療魔法!
回復魔法が発動したと同時に、男子生徒は意識を回復させる。
「う、う……ん……はっ! お、俺は……気絶していたのか?」
男子生徒はハッとした顔になってから、私へと尋ねた。
「まぁ、そうな?……だけど、お前の漢気は買うぞ。良くやった」
「そ、そうか? じゃ、じゃあ……これで、俺もモテモテになるかなっ⁉︎」
「うん、無理だ。取り敢えず私はちっともトキメかなかったぞ」
その後、男子生徒は石化していた。
……少し、本音を言い過ぎてしまったか。
まぁ、良い。
きっと、このクラスに居る誰か一人ぐらいは、お前の漢気を分かってくれるヤツがいると信じて置くぞ。
信じて置くだけだがなっ!
回復し、意識は戻ったのだが、まもなく石化して頭がお花畑へと向かってしまった男子生徒はともかく。
「……おい、チャンピオン。流石にちょっとやり過ぎだろ? こんな事をいきなりやって……クラスのみんなが怖がるじゃないか」
私は、ちょっとばかりイライラした顔になって言う。
挑戦を受けるのは勝手だし、果し合いをする事を咎めるつもりはない。
しかし、やるのならば、もっと人気のない場所で、みんなに見られない様にするのが道理なのではないか?
結局、みんながいる教室で、見世物も同然の状態でやったのなら、負けた方が可哀想ではないか。
……ふむ。
なるほど。
そこで私は閃いた。
コイツはチャンピオンだ。
よって、大勢の前で負けた事がない。
あるいはあるのかも知れないが、みんなの前で盛大に負けて、恥ずかしい想いをした事がないから、こんな真似が出来るのではなかろうか?
……思った私は、
「おい、チャンピオン。お前は誰の挑戦も受けるんだったよな? じゃあ、ここで一つ勝負と行こうじゃないか?」
軽い口調で、チャンピオンへと口を開いた。
すると、チャンピオンは待ってましたと言わんばかり。
「まさか、リダさんの方から僕の挑戦を受けてくれるとは思わなかったよ。嬉しいね? 是非やろう! 場所は……そうだね? 体育館でどうだい?」
「いや、ここで良い。それとハンデも与えてやる。私が動かすのは右手の人差し指。魔法も使わない」
「……えっ?」
私の言葉に、チャンピオンは大きく目を見開いた。
その直後、
「はははっ! 流石にそれは無理があるよ、リダさん。あなたの実力は僕も認めるけど……それでは僕が余りにも有利過ぎる」
軽やかに笑って、チャンピオンは私へと口を動かして来た。
きっと、冗談だと思っての事だろう。
「そうだよ、リダ! 相手はフェルさんだよ!『人差し指も動かせる』なんてダメ! せめて、左手の小指だけにしなさいよ!」
少ししてから、更なるハンデの追加を要求して来たフラウの声が聞こえて来たけど、私は普通に聞き流していた。
……ま、別に左手の小指だけと言うハンデでも構いはしないのだがな?
「場所はここで構わないし……今直ぐやりたいの言うのなら、その条件で良いと思う……だけど、ハンデは受け入れられない。僕には僕なりの信念があるからね!」
チャンピオンは颯爽と叫んだ。
そして、教室に女子の黄色い声が、辺り一面に木霊した!
一々、うるさいよ! ウチの女子。
他方、その頃。
「アリンちゃん、見て見て!」
「お? おぉぉぉぉぉっ! す、すごいお! 可愛いおぉっ!」
新作の人形を自慢気に見せていたルゥ姫に、アリンがとんでもない勢いで瞳を輝かせていた。
だが、それは関係ない!
「ハンデなしで良いのな? じゃ、それでも構わないぞ? 後悔しないのなら……な?」
私は好戦的な笑みを緩やかに作りながら言う。
「もちろん! いつでも掛かって来ても構わないよ!」
そして、チャンピオンは意気揚々と叫んでは、ファイティング・ポーズを取った。
そのコンマ一秒の半分にも満たない時間で、決着はついた。
「……あ、あれ?」
腹部にズンッ! っと、私の拳が突き刺さる。
その事実に気付いた時には、もうチャンピオンは意識を失っていた。
ドサッ……と、床に倒れる。
……やれやれ。
これで分かってくれれば良いんだがな?




