打倒! リダ・ドーンテン!【2】
何にせよ、その日はそれで終わった。
厳密に言うと、ゴシップ怪獣改め美男子大好き怪獣が、ギャーギャーとうるさく喚き倒してくれちゃった物だから、掃除と洗濯が捗らず……そうこうしている内にウチのヤンチャ怪獣が、自室へとお腹を空かせて帰って来てしまった物だから、昼食を作らなければならくなって散々な目にあったりもするのだが。
くそ……フラウめ……この借りは、後で地味に返してやらねば。
しかしながら、私が被った事と言えばこの程度の物で、以降はいつも通りの日常を平々凡々に送るだけに至った。
フラウが言ってた、異種格闘の世界チャンピオンとか言う男が、この学園にやって来るまでは……。
数日後の事だ。
その日、私は全ての授業を終えて、アリンと一緒に近所の商店街へと、今晩のおかずでも買いに行こうかなぁ……と、ぼんやり考えていた。
「アリン、今晩のおかじゅには、アイスが良いと思うお〜っ!」
アイスはおかずに入りません。
「アイスはダメだ。昨日もチョコ・クッキーをバクバク食ってたろ? 甘い物ばかり食べてたら太るし、虫歯だって出来る」
「ぶぅ〜っ! か〜たまのけちけち魔王っっ!」
単純にお金の問題で言ってるんじゃなく、私はお前の健康を考えて言っているのだっ!
……と、まぁ。
相変わらず、ウチの愛娘が、底無しに甘い物を要求して来るので、ドクターストップならぬか〜たまストップを掛けていた頃、
キャァァァァァァッッッッッ!!!!!!
やおら激しい、黄色い声援が轟いて来た。
それは、もはや『轟き』と形容するのが正しいと思う。
甲高い声援が、耳を押さえたくなるまでの勢いで、周囲に響き渡っていた。
「……あれ、なんだお? 美味しいお?」
アリンは不思議そうな顔になって私に尋ねて来た。
「これこれ、アリンちゃん。人を指差しちゃ行けないよ? それと、あれは生物であって、食べ物じゃないから食べれないと思う」
「そっか〜。じゃ、良いや」
アリンの興味は、この瞬間にゼロとなった。
まだまだ三歳児である。
色気より食い気と言う事なんだろう。
だけど、どう考えても人間にしか見えない様な相手を指差して『美味しいの?』って言うのは止めさせないと行けないな。
少し、アリンへの食育についてを考えさせられた私だったが……まぁ、そこらに付いては、追々教えて行こうかと思う。
取り敢えず今の所は……場違い感と言うか、妙に黄色い声援が飛び交うライブ会場にみたいな所から退散して置こうか。
思った私は、黄色い声援の中心付近へと向かい、そのまま校門の外へと出ようとしていた。
正直、関わりたくないので、本当は黄色い声援の方には向かいたくなかったのだが……学園の外に出る道がそこしかなかったんだよな。
それにしても、かなりの数がいるな。
……見れば、ちゃっかりフラウがいる。
……ま、ファンクラブの会員だったし、いてもおかしくはないのか。
ふと、横目で軽く見流しながらも声援を送っている女子達の後ろ辺りをゆっくりと歩いていた時、
「おい、そこの銀髪女子! ちょっと待ってくれないかっ!」
何故か、私に声を掛けて来る男が一人。
……ん? なんだ?
声がした方向を見ると、声を張り上げている女子の群れしか見えない。
それにしても……良くもまぁ……こんなに人が集まったな?
しかも、さりげなく一般人まで混じってないか?
……ここ、学園の敷地内だぞ?
ともかく、声はすれども、姿は見えない。
……うむ。
「か〜たま、お腹空いたお〜。アイス食べたいお〜」
そこで、アリンが私の裾を軽く引っ張って来た。
……うむ。
「アイスはダメだが、確かに夕飯のおかずは買わないと、だな? よし、行こうか」
なんか、呼ばれた様な気がしたんだが……ま、良いか。
「おい! だから、待ってくれよ! 君が噂の学園魔王、リダ・ドーンテンなんだろっ⁉︎」
…………。
再び聞こえた男の声を耳にし、私は徐に眉を捩った。
私の経験上……学園魔王とか言うヤツにロクな人間が居ない。
思った私は、そのまま聞こえないフリをして、アリンと一緒にスタスタと歩いて行こうとしたのだが、
グイッ!
いきなり右手を掴まれて、そのまま引っ張られた。
イラッ!
何処の何奴だっ!
「いきなり、人の右手を引っ張るとか……とんだセクハラ野郎だな? 貴様?」
私は額に怒りマークを付けた状態で言うと、
「あなたが、僕の言葉を聞いてくれないからじゃないか? さっきから何度も呼んでいると言うのに」
さっきから、私の事を呼んでいたのだろう男が、非難がましい声を返して来た。
私からすれば、知った事じゃないんだよっ!




