打倒! リダ・ドーンテン!【1】
ボチボチ、周囲の空気が寒くなって来たのを感じる。
私って……どうも寒いのが苦手なんだよなぁ……だからって言うのもおかしいけど、秋はどうにも苦手だ。
なんて言うか、こうぅ……物寂しさと言うか、哀愁みたいな物を連想させられてな?
寂しがり屋の私だけに、そう言う物を連想させられる状況と言うか、シチュエーションがどうにもこうにも、好きになれない。
まぁ、嫌いな季節だから、こんな季節なんぞ無くなってしまえ!……なんて、傲慢な事を言うつもりはないんだけどな?
……ま、前向きに考えれば、秋と言うのは色々な実りを実感させる、充実した季節でもあるしな?
ガチャッ!
「リダ! ビック・ニュースだよ!」
……は?
なんだかやかましいのが来たな?
その日、休日だった私は、隣の部屋へとお人形を持って音符を飛ばしながら遊びに行ったアリンの居ぬ間に、ササッと掃除と洗濯を済ませてしまおうと立ち上がっていた所だった。
よし、ヤンチャ怪獣が出払っている内に、やれる事をやって置こうか!……なんて思っていた訳なのだが、ヤンチャ怪獣が隣の部屋へと遊びに行って間もなく、ゴシップ怪獣が自宅へとやって来た事で、私は眉を捻ってしまった。
ゴシップ怪獣こと……フラウは、キラキラした瞳で私の前にやって来ると、
「これを見てよリダ! 格好良くないっ⁉︎」
やたらイケメンな男が、新聞の一面を飾っていた。
ふぅむ……これはスポーツ新聞の一面だろうか?
軽く文字を読むと『若干17歳の世界チャンピオン爆誕!』なんて感じの見出しから始まっている。
軽く内容を読むと……どうやら、この世界で行われている、なんでもアリの異種格闘技戦で、チャンピオンになった話がニュースとして取り上げられている模様だ。
「へぇ……結構な美男子が、新チャンピオンになったんだな?」
「でしょうっ⁉︎ もう、私も嬉しくって!」
なんでお前がそこまで喜ぶんだ?
お前がチャンピオンになった訳でもないだろうに。
胸の真っ平さであるのなら、世界チャンピオンになれるかも知れないフラウは、何故か鼻息を荒くして、猛烈に喜びを身体でアピールしていた。
「私、ファンだったんだよね! だって格好良いから!」
相変わらず歯に衣を着せないヤツだな。
「お前がファンだったと言うのは分かったし、別に否定するつもりない……が、それで? これの何処にビック・ニュースがあると言うんだ?」
まさか、コイツが世界チャンピオンになった事がビック・ニュース……とかほざくんじゃないだろうな?
もしそうなら、ソッコーで帰って貰おうか。
私は、何処の誰か良く分からない男が、異種格闘技戦で世界チャンピオンになったとしても『へぇー』で終わるレベルだ。
そんな事より、ヤンチャ怪獣がコッチに戻って来る前に、自室の片付けをしないと!
「なんと、このフェルさんが、この学園にやって来るんだよ!」
「……はぁ?」
底無しの気合を入れ、荒々しい鼻息から血が混じってしまうんじゃないのか? って勢いで叫ぶフラウに、私はぽかんとなってしまった。
「なんでまた、こんな所に……?」
なんとなく……うむ、なんとなぁ〜くではあったのだが……妙な胸騒ぎがする。
特段根拠と言う根拠なんか無いのだが、その世界チャンピオンがこの学園へとやって来ると言う事実に、何やらいや〜な予感がしたのだ。
普段から、良い予感はちっとも当たらない癖に、こう言う悪い予感だけは、何故か妙に当たるんだから困り物だ。
他方のフラウは、きゃあきゃあと無駄にはしゃいでいる!
かなりの興奮状態で、あたかもライブ会場にでもいるかの様に、口を思い切り開けた状態のまま、無作為に熱狂していた。
もう、半狂乱状態だ。
無造作に開けている口には、小さいハートとか生まれていそうだ。
一体、フラウの何が、こんなにも熱狂させてしまっているのだろう?
……いや、ここを問い掛けるのは愚問と言えよう。
だって、単純に格好良いから、興奮しているだけだと思うし。
その他に理由はないのか?……と問い掛けたら、秒を掛けずして『ない!』って即答して来そうな話だし。
つまり、いつも通りのフラウと言えば、存外間違えでもないから……まぁ、草しか生えないな。
「それにしても、世界チャンピオン……ねぇ」
なんで、そんな有名人が、こんな学園に来るのだろう?
そもそも、ここに来る理由が分からないのだが……?
「これは、ファンクラブ・ナンバー二百七十七万飛んで一番の私へと逢いに来てくれるに違いないよ!」
取り敢えず、それは絶対ないと言う事だけは分かった。
つか、ファンクラブに入っているのかよ……。
相変わらず流行りが好きと言うか、美男子と名が付く物には目がないと言うか……フラウの個性が滲み出ている台詞に、私は馬鹿らしい心境を禁じ得ないまま、口を開くのも億劫な顔で、呆れる事しか出来なかった。




