もう一人の自分と、何もかもが自分の記憶と合致している世界【11】
もう、言葉は要らないと思った。
互いに、互いが好きだ……と、口になんか出されなくとも分かる。
この温もりと……脈動感が溢れているリガーの鼓動。
そして、あたかもシンクロしているかの様に力強い脈を打つ自分の心臓。
だけど、少しずつ……その鼓動がゆっくりと、安らかな物へと変化して行く。
……落ち着く。
暫く忘れていたよ、こんな感覚。
そうだよな? 人を好きになる……って、こんな感覚だったよな?
同時に思った。
好きな人が、こうして近くにいてくれる事って……こんなにも幸せだったな……と。
もう、さ?
忘れていたよ、私は。
アリンの父親ともさ、本当はもっとあっても良かったと思うんだ。
今の様な時間があってもさ?
けれど、あの時はそんな余裕なんかなくて。
挙げ句……私はアインを助ける所か、殺してしまって……。
切ない想いしか、私には残らなかった。
だから、これはアインの時に本来なら感じる事の出来た温もり。
ちょっとだけ遅れてやって来た幸せ。
……そんな事を、曖昧ながら考えていた。
恋人って良いな。
いつか……そう、いつか。
自分の世界に戻った時、私にもリガーの様な存在が現れるのだろうか?
もちろん、そんな未来の事なんか、今の私には分からない。
だけど、出来たら良いなぁ……。
そんな事を考えつつ、私はリガーの身体に寄り掛かりながらも観覧車の風景を見据えていた頃、
「……リダ、キスしても良いか?」
え? えぇぇぇっ⁉︎
い、いや、それは……なんか、ちょっと心の準備がっ!
藪から棒にやって来たリガーの言葉によって、私の頭が一瞬でカオスになってしまった。
決して嫌ではないし……それに、リガーであるのなら、口付けを交わすのも吝かではない。
ないけど……やっぱり恥ずかしい!
なんだかんだで、私にも羞恥心はあるのだ!
感情が揺れるんだ!
だけど……でも、けれども、だ!
「……ああ、優しくしてくれよ?」
私は冗談半分に頷いてしまった!
もう、その場のノリみたいな物だ!
本当は、ちょっと場の雰囲気と勢いに任せてしまっている!
そして……私も……リガーとキスしたいと思っていた。
ちゅっ……
それは、実に軽いキス。
もう、初々しいレベルの……唇が触れたかどうか程度の浅い物だった。
けれど……私にとって、一生忘れられない物になるんじゃないのかな。
茜色に染まる観覧車の頂上付近で……私とリガーの唇は、ゆっくりと重なって行くのだった。
◯●●●●
色々な意味で、インパクトのある思い出達が生まれた。
ちょっと恥ずかしい部分もあるけれど、私にとっては良い思い出だ。
そして、腐リダにとっても。
遊園地を出た私達は、まもなくフードに身を包んだ存在……パラレルと鉢合わせた。
偶然バッタリ……なんて訳はない。
周囲を見れば、ボチボチ日没だ。
つまり、これがタイムリミットなのだろう。
「リダさん……やってくれましたね……お陰で、危うく臭い飯を食べる羽目になる所でしたよ……」
開口一番、変態は苦々しい声音で、私へと恨み節をかまして来た。
ズバリ言って因果応報だ。
「お前が、私のパンツを盗撮しようとしなければ、私だって通報しなかったと思うぞ? つまり、自業自得だ」
私は呆れた声音でパラレルへと声を返した。
それ以上でも以下でもないと思うんだが?
「……まぁ、過ぎた事は忘れましょうか?」
お前は忘れちゃダメだと思う。
だけど、そうだな……そこで、ああだこうだと口論乙駁していたのなら、話はちっとも進まなくなる。
ついでに言うのなら、結構な時間だ。
きっと、この世界にいるリダとリガーの二人は、明日から普通の生活……つまり、学校もある。
これら諸々を加味するのであれば、変態の変態行為についてあれこれと語るのは時間の無駄も甚だしいだろう。
私としては、色々と言ってやりたい事があるが……ここは、この世界にいるリガーと私の二人に免じて、水に流してやろう。
変態は、この二人に感謝するよーに!
「それで? そろそろ、俺達が戻る時間か?」
少し間を置いた所で、リガーが変態へと尋ねると、
「そうです。どうですか? 良い思い出は出来ましたか?」
やんわりとした声音を飛ばして来た変態の言葉を耳にした瞬間……私は頬を赤らめてしまった。
見れば、リガーも似たような顔になっている。
……うむ。
こんな所までシンクロしなくても良いと思うぞ。
「その様子だと、しっかりと楽しいデートをする事が出来た模様ですね? 良かった! それじゃあ、お礼はリダさんのパンツ一枚で良いですよ? 個人的にはストライプが良いですね! 青と白のヤツが……はいはい! 冗談ですから、即座に右手を向けるのはやめましょっ! 本当、最後の最後なんですから、私のラスト・ジョークにそこまで怒らないで下さいよ!」
変態は、しれっと変態の台詞を口にし……最後は居直って叫んでいた。
そう言うお前も、最後の最後ぐらい、真面目な台詞を真摯に行う事が出来ないのかよ!




