もう一人の自分と、何もかもが自分の記憶と合致している世界【10】
「……なぁ、リダ?」
その時、対面に座っていたリガーが口を開いた。
何だろう? 妙に緊張した顔になっている様な……?
「隣……座っても良いか?」
……え?
私は思わずドキンとなる。
『えぇぇっ⁉︎』
直後、私の中にいる腐リダが思い切り叫んだ。
同時に……私の心臓が、あたかも全力で長距離走を熟した後の様な勢いで、徒らに上昇して来た!
ふぐぅお……。
ちょっと落ち着け腐リダ!
ここで……こんな密室で、心臓をブーストさせて来たら、私の精神が保たなくなってしまうっ!
「か、構わないぞ……?」
リガーの言葉に、私はコクリと頷く。
ここで拒む事も、選択肢として存在していたのかも知れない。
知れないけど……それは、なんとなくやってはいけない……そう思えた。
大した根拠があった訳じゃないけど……だけど、やっぱり……私は私なりに腐リダへと恩を返さなければならない。
そこを加味するのであれば、このデートは特別な物であり、しっかりと恋人を演じなければならないと思えたからだ。
結局、私が表立って主人格をやっていたのなら、もはやそれは意味のない事なのではないのか?……と言う疑念を、私も持ってはいたのだが……反面、こうとも思うのだ。
腐リダと同様、リガーもまた異なる並行世界の自分と精神を同居している状態なのだから、今回のデートはしっかりと記憶として残る……と。
それなら、ここで起きた出来事は、決して二人にとって無駄にはならない。
むしろ、有意義な物になるんじゃないのか? とさえ思っているのだ。
故に……思う。
今の私は、リガーを歴とした恋人として対応する必要があると。
恋人であるのなら、観覧車で隣の席に座っても、全くおかしな事じゃない。
なんなら、むしろ……普通の事なんじゃないだろうか?
よって、拒むのは不自然だ。
それだけに、私は素直にリガーの申し出を受け入れたのだが、
「……な、なんか……その……は、恥ずかしいな」
私は苦笑混じりのまま答えた。
観覧車のガラスに映る私の頬は……心成しか赤く染まっている様に見えた。
それは、茜色の空がそうさせていたのか?……なんて、嘯きたい所ではあるが、もちろん違うな。
もう、心臓の鼓動が、特に意識しなくても大きく脈打っているのが分かる。
顔が大きく高揚しているのは……間違いなく、リガーに強い熱情を傾けているからだ。
……うむ。
もう、これは腐リダだけの物ではないのかも知れない。
素直になるべき……なの、かな?
はは……少しだけ私はおかしくなってしまったのかも知れない。
だって……私は知っているんだ。
リガーは並行世界にいる、もう一人の私である事を。
だけど、結局……心の何処かでは、リガーを一人の異性として最初から認めていたのかも知れない。
そう思えた時……なんか、思った。
このドキドキも……緊張感も……しっかりと素直に受け止めてしまえば、心地良い物に変わるんだなぁ……と。
ふと、そこまで考えた時……私はリガーの肩に自分の身体をゆっくりと寄り掛かっていた。
「……リダ?」
きっと、不意打ちと感じたのだろうリガーが、突発的に驚いた顔になっていたのだが、
「もう、素直になろうと思った……リガー。やっぱり結局……私もお前の事が好きな様だ。未だ曖昧な台詞になっているけど、それは私が口下手なだけだ、そこは忖度してくれ」
頬を赤らめたまま答えた私の言葉を耳にした時、リガーは何かを悟ったかの様な笑みをやんわりと作ってみせた。
「……そうだなぁ……確かに、俺も口下手だから、お前の気持ちは分かる……お前の言いたいと思っている事を含めて……さ?」
そう答えると、リガーの首筋辺りに私は引き寄せられて……。
「我ながら馬鹿だと思う。色々知ってもいる。だけど、やっぱ……だめだ。だから言う。俺……リダが好きだよ。同じ人間だ……って知ってても、さ?」
更に優しく抱きしめながら、リガーは私に言って来た。
この瞬間、腐リダが鼻血を出しそうな勢いで叫んでいたけど……省略。
取り敢えず、うるさく叫んでいたと言う事だけを知っていてくれれば、それで大体は当たっている。
それに、私としても……ハッキリ言って腐リダに構っていられる程の精神的な余裕がなかった。
本気でドキマギ状態だ。
リガーの首筋に、自分の頬が当たる……温もりが直接やって来る。
密着した事で分かった事で、リガーの心音も聞こえて来た。
かなり勢い良く脈を打っているのが分かった。
ああ……私と同じか。
口でも言ってはいた。
馬鹿な事だと承知で言っているけど……でも、私の事が好きだ……と。




