もう一人の自分と、何もかもが自分の記憶と合致している世界【5】
ともかく、鼻血が出そうだからと言ってトイレに逃げ込んだとしても、今度は今度で鼻血の放出量が、輸血が必要になるんじゃないのか? って勢いで大量放出されてしまい兼ねない為、単純にトイレへと逃げ込めばそれで解決する問題ではないと言う事だけは理解する事が出来た。
……つか、お前はどんだけリガーが好きなんだよっ⁉︎
興奮して鼻血を放出し過ぎて、出血多量で輸血とか……そんな事になったら、笑い話にもならん暗黒ネタだぞっ!
ともかく、落ち着け? なっ⁉︎
『分かってる……大丈夫だ! 今の所、私の鼻から鼻血が吹き出る事はない! ちょっとヨダレが出るだけだ!』
それもやめて!
いや、マジでバカなのか、お前はっ⁉︎
もう、同じリダなのかとマジで思いたくなる醜態を、私の胸中でのみ晒している腐リダがいる中で、
「……で? 今日のプランと言うか、予定なんかあったりするのか?」
リガーが、軽い口調で私へと言って来る。
「……いや、知らんが?」
「はぁ? マジかよ? 全く予定がないとか……計画性のない奴だなぁ……」
「お前に言われたくないよっ⁉︎ お前だって一緒だろ? つか、こう言うのは男がリードするのが、スマートなデートなんじゃないのかっ⁉︎」
「俺が決めて良いのなら、そうするが? 良いのか?」
……う。
なんだろう? 妙にドキッ! っとなる私がいる。
まぁ、私ではなく、
『……え? リガー君が決めるの? どうしよう? 何処に行くのかな? もしかして……なんか、いきなり凄い所に連れて行かれたりする?』
明らかに勘違いスペシャルしている、脳内お花畑の腐リダが、どう考えても無理があるだろう期待をしていたのが、根本的な素因ではあったのだが。
「別に構わないぞ? 普通にデートらしいからな? お前が決めても私が決めても、どっちでも構わないだろ?」
『きゃーっっ! リダママってば大胆っ!』
……いや、大胆でも何でもないだろうが。
「そうか。じゃあ……そうだな?」
私の言葉を耳にし、リガーが軽く頭を捻らせる。
そこから数十秒程度の時間が経過した後、リガーは再び口を開いた。
「ここから二駅ぐらいの所に、確か遊園地があったよな? そこにするか?」
「ふむ、良いんじゃないのか?」
『え? なんか、思った以上に普通だなぁ……もっと、こうぅ……大人の営みが可能な所の方が……』
もう良い、お前は喋るな腐リダ。
やっぱり脳内がお花畑になっていたのだろう腐リダの言葉は、当たり前の当然の様にスルーした。
人の事を大胆とか言っているけど……私からすればお前の方が過激なまでに大胆だと思うぞ?
『そんな事ないと思うぞ! だって、私はリガー君が好き……きゃぁっ! 言ってしまった! どうしよう、物凄く恥ずかしいっ!』
ああ、はいはい。
私の胸中でのみやっている分には恥ずかしくはないな?
……強いて言えば、そんな声を拾っている、私が恥ずかしい気持ちで一杯になるだけだ。
ともかく……これで目的地は決まったな?
「……よし、じゃあ行こうか?……あ、それともリガーも何かテキトーに飲んで行くか? ここのコーヒー、結構イケるぞ?」
私はそれとなく答えると、
「……ほう? そいつはちょっと気になるな? こっちの世界にはもう二度と来る事もないだろうし……記念に一杯飲んで行きたいな?」
ニッ! っと爽やかな笑みを作って頷くリガーがいた。
……ぐ。
ちょっとだけ格好が良いと思える私がいてしまった。
くそ……屈辱だ。
自分に対して一秒でも格好良いと思ってしまうとは。
他方の腐リダは……
『はわわわわっ! ちょっ……リダママ! これ、どうしよう……メチャメチャ格好良過ぎて、私……どっかに行ってしまいそう!』
……なんか、卒倒寸前になっていた。
まぁ、幸せな感情が私の方にもやって来ているので、取り敢えず心配ないだろう。
強いて言えば、いつ私の鼻から真っ赤な鼻血がジェット噴射するか分からない所が心配だろうか?
……いっそ、輸血パックでもバックの中に入れて置いてやろうか?
そんな、嘯きにしても笑えない事を、半ば本気で考えている中、リガーが私の隣に……っ⁉︎
『ぐはぁっ! リダママ! これは強烈だ! これはダメだ! 私の心臓と鼻が耐えられない! 頭がとろけてしまいそうだ!』
落ち着け腐リダ!
リガーは単純に隣の席に座っただけだ!
普通にデートしてるんだから、こう言う場面で隣の席に座るのは普通だぞ!
マジで落ち着けぇぇぇぇっ!
「……ああ、お前もそうか」
全力で腐リダの興奮を抑制していた頃、苦笑混じりになってリガーが答える。
……お前も?
……うむ。
「……なるほど」
私は納得した。
なんて事はない。
きっと……いや、間違いなくリガーも同じような状況になっていると言う訳だ。
厳密に言うと、同じ心境と述べた方が良いのかも知れないが。




