もう一人の自分と、何もかもが自分の記憶と合致している世界【4】
結局の所、まだまだ予断の許されない状況が続き、腐リダの興奮レベルがクライマックスを迎えた時は、全力でトイレにダッシュしてやろうと本気で心配していた頃、
「おはよう……早かったな」
リガーが私の前にやって来た。
……ほほ〜。
「なんだ、リガー? お前も地味に格好付けて来たのな?」
私はニヤニヤしながら答えた。
こんな事を言ったのは他でもない。
しっかりと髪型を決めて来たからだ。
なんて言うか……色気付いた高校生って感じだ。
きっと、この様子をお母さんが見たら『リガーもそう言う歳なのね!』って感じで、息子の成長を少し喜ぶかも知れない!
ただ、服装は地味にパッとしな……ん? いや、まてっ⁉︎
見た感じは普通にTシャツとGパン……そう、極めてオーソドックスな物に見える。
だが、しかぁ〜しっ!
「それにしても……お前、何処のお坊ちゃんだよ……」
私は苦い顔になってしまった。
それと言うのも、Tシャツはブランド物で、Gパンはバリバリのビンテージモノだった!
Tシャツもピンキリあるからな? 特にTシャツにはうるさいリダさんだ。
確実に一万はするぞ、それ……。
まぁ、この世界では安いのかも知れないけど……私の世界にも似たようなのがあって、それは間違いなく一万越えだっ!
Gパンも普通に数万とか行くだろ……それ。
わ、私なんて……いつぞや黄金島に行った時の為に大枚叩いて買った服が、上下セットで二万五千マールだったと言うのにっ!
それだって、清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った、かなりの贅沢品だぞ? それをなんだ? 下のGパンだけで……私の服が2セット買えちゃいそうなのを履くとか……お前、それでも高校生かっ⁉︎
「なんか勘違いしている様に見えるが……これは、この世界のリガーがしっかりとバイトして貯めた、とっておきの服だぞ? 別にコイツが何処そこの金持ちって言う訳じゃない。高校生の癖にクッソ生意気だ! 見たいな顔をするのはやめろ。実は俺も少しだけお前と同じ事を考えてたんだ」
程なくして、リガーが少しばかり不本意な顔になりつつ……地味に言い訳がましい声音を私に向けて来た。
……ぐ、むぅ……。
まぁ、つまり……この世界のリガーなりに頑張って買った、特別な服って言う所なんだろうか?
そう考えるのであれば、こっちのリガーも自分なりに精一杯のおしゃれをして来たと言う事になる。
なんだろう……それはそれで嬉しい気持ちもあるな。
きっと、私の中に隠れて表面に出て来ない腐リダのせいなんだろうけどな!
どの道、リガーとしても余り良い気分はしていない模様だ。
まぁ……気持ちは分かるぞ? うん。
私と同じ生き方をしていたのなら……まぁ、つまる所が今のリガーと同じ年齢の時に、そんな上等な服なんてまず着れなかったに違いない!
……ま、金がなくて買えなかったと言うわけではなく、単純に純粋に服の為にそこまでの金を使うのが勿体ないと思っての事だったのだが。
思えば、あの頃から私は良く周囲の人間に『超節約家』だの『ミラクル貧乏性』だの、散々な事を言われていた様な気がする。
人間……何処で入用になるのか分からないだろ? その時の為に貯金するのは普通だと思うんだが? どうなんだろう?
……って、私の懐事情はどうでも良かった。
なんにせよ、高校生のクセして早くも高級な服とかしれっと持ってるんじゃないよと言う、非難がましい貧乏性な私の意見は置いといて。
『凄いよ、リダママ! リガー君が私の為に、とっておきの服をわざわざ選んでくれるとか……もう、これは鼻血が出ても仕方ないよなっ⁉︎』
いや、出すんじゃないよ!
私的な問題は、私の中に居る腐リダの行動だ!
もう、リガーのちょっとした言動や態度の些細な動き一つに、さっきから『きゃぁぁっ!』だの『おぉぉぉっ!』だのと、もうやかましいったらない。
まるで、アイドルを相手にしているかの様な喧しさだ。
コイツは本当に私なのだろうか?
そう思えてしまうまでに、私の胸中で無駄な盛り上がりを見せていた。
正直、そこまで嬉しいのであれば、お前が主人格として表に出て来いよと言いたい。
『そ、そんな事をしてみろ! 即座に顔が赤くなって、そのまま化粧室へGOだぞ! そして、この店の女子トイレが殺人事件の現場みたいに血塗れになってしまうぞ!』
それはそれで勘弁して貰いたい。
つまり、鼻血によって周囲が血塗れになってしまうと言いたいんだろう。
恥ずかしいから、絶対にやらせたくない。




