もう一人の自分と、何もかもが自分の記憶と合致している世界【3】
……と、まぁ。
かなり前置きが長くなってしまったのだが、この様な経緯から、今の私は近所にある駅ビルのカフェ・テラスにて、リガーがやって来るのを待っていた。
待ち合わせの時間は十時。
腕時計の時刻は九時半。
……いや、幾ら近いからと言って、どうして私は待ち合わせの三十分も前にやって来ているんだ?
本当、自分ツッコミとか、器用かつ残念な事なんぞしたくはない私ではあるのだが……これは、私の中にいるもう一人のリダ……腐リダのせいだ。
腐リダ曰く『人生初めてのデートで遅刻とかしたくない!』らしく、絶対に遅刻しない時間には、待ち合わせの場所に居たかったらしい。
……結果、これだよ。
見事に待ち惚けだよ!
本当に、何をやっているんだよ、腐リダ!
『まだかなー? 早く来ないかな? ねぇ、リダママ? リガー君って、どんな格好をして来ると思う? 暇だから、一緒になって考えてみない?』
確かに暇ではあるな。
地味に待ち惚け状態の私がいた頃、心の中にいた腐リダの声がやって来る。
パラレルが言っていたから、少しは理解してくれる方もいるかも知れないが……今の私と腐リダの関係は、かなり平等だ。
今は腐リダが精神の中へと(逃げる様に)入ってしまっているが、主人格の変動も可能になっていた。
ただ、私が思っていた以上に、この腐リダは……臆病と言うか、根性なしと言うか……はぁ。
『嘆息するまで呆れるんじゃないよ⁉︎ 私だって、緊張するんだ! そして、色々と考えてしまうんだよ!』
……まぁ、分からなくもないぞ?
何故なら、感情は共有だからな?
ここらはパラレルの意地悪さが目立つと言うか……わざとやってるんじゃないのか? と言いたくなる部分ではあるのだが……なんと、腐リダと私の感情は共有……つまり、同じなのだ。
よって、腐リダの感情が高まると、私も感情が高まってしまう。
お陰で、コイツが興奮して脈拍を上昇させると、私までドギマギした心情へと引き込まれてしまうのだ!
全く! マジで勘弁だぞ!
しかも、コイツと来たら……まだ来てないと言うのに、もうワクワクそわそわ状態で……ウキウキが全く止まらない!
お陰で、私も地味に嬉しい気持ちが満たされていて……元来、乗り気ですらない筈のシチュエーションに最大の幸福を抱いているんだから……もう、笑えない。
本当……色々と物を申したい気分だぞ。
リガーは、並行世界にいる、もう一人の私だと言うのに。
『それは、リダママ達の世界で……だろう? 私の世界でのリガー君は全くの別人だ。ちゃんとこの世に別の人間として生を受け、しっかりと生きている!』
……そうなんだよな?
腐リダの言葉を聞いて、私は眉を捩りながらも頷いていた。
正直、謎でしかない。
リダとリガーは、性別違いの同一人物であり、違う並行世界では全く同じ存在として生きている。
それなのに、この世界では『全くの別人』として、普通に同じ世界で暮らしているのだ。
しかも、この調子だと、普通に恋人になれるんじゃないのか?
まるで、魂を二分し……その二分にした魂同士を繋ぎ合わせるかの様に、お互い惹かれ合っているかの様な? そんな感じだった。
……うむぅ。
テキトーに考えた仮説ではあるが……もしかしたら、そうなのかも知れない。
どうして魂が二分化してしまったのかは知らないし、互いに片割れとなった相手の魂を求める結末に至ったのかまでは、全く想像も付かないのだが。
しかし、もし……生まれて来る前に、もう恋人となる事が確約されていたとするのなら……なんて言うか、ロマンがあるなぁ……なんて、思ってしまう。
だって、これってさ? アレだろう?
運命の赤い糸と、同じな訳じゃないか?
『キャァァァッッ! どうしようリダママ! そんな運命であったのなら、私……幸せ過ぎて鼻血が出るんだが⁉︎』
……おい、やめろ腐リダ!
今のお前が興奮して鼻血なんか出したら……私の顔から鼻血が出るんだからなっ⁉︎
まだ午前中とは言え……こんな、人が結構いる駅ビルのカフェ・テラスで、一人座っているJKが、なんの脈絡もなく顔から鼻血とか出したら……ミステリーだろっ⁉︎
『確かにそうだな! そして、ここは私の世界だから、鼻血とか出したら……私の黒歴史になってしまう! そうだ! そうだぞ、リダ・ドーンテン! お前はそんな黒歴史を残す女ではない!』
……少し危なかったけどな?
まぁ、良い。
取り敢えず、一応の正気に戻ってはくれたみたいだ。
……まだまだ、地味に怪しくはあるんだけどなっ!




