そもそも名前などあろう筈もない新世界【12】
「い……いやだなぁ……そんな、リダさん……これはちょっとした紳士的なジョークですよ? うんうん! そうなのです! やっぱりね? この様なジョークを挟む事が、緊迫感のある現状を大きく和ませる効果が……ああああああっ! やめて! ねぇ? 今、リダさんって補助魔法と補助スキルが付与されてますよね? いや、マジでヤバいですって! もう、本当にやめて! その右手はやめぇぇぇぇっっ⁉︎」
ドォォォォォォォンッッッッ!
よし、変態は滅んだ。
つまり、奥の手とやらは……私かっ⁉︎
そんな事を考えていた時だった。
治療魔法!
リガーが即座に変態へと回復魔法を発動させてしまう。
「おい、リガー……そいつは、口を開くとセクハラ・モラハラ染みた台詞をポンポン吐き出す、歩く猥褻物だから、そのままにしとけよ。マジでムカつくから」
苦々しい顔になって言う私がいる中、
「……いや、そんな事を言っている場合ではなさそうだぞ?」
リガーが真顔になって地平線の彼方を指差した。
その先にいるのは……恐らくユニクスだ。
私の予測が確かであるのなら、さっきからずっと同じ位置に待機………あれ?
「……な、なんだ……これは?」
私は目を大きく見開いた。
とてつもないエナジーだ!
「何をしているか知らんが……これは、間違いなく『俺一人では手に負えない』……悔しいがな」
そうと答えたリガーの言葉通り、これは常軌を逸した、とてつもないエナジーだった。
きっと、このエナジーは……もはや、惑星で戦闘など出来ないレベルのエナジーだ!
恐らく……レベル6はおろか、7にしても……上回る事が出来ない!
「やはりそう来ましたかっ!」
うわをっっっ!
次の瞬間、リガーの回復魔法によって完全復活を果たしたパラレルが、くわわっ! っと叫んで見せた。
いきなり何なんだよ、お前は……?
「連中は、ユニクスと合体してます!」
「……は?」
私はポカンとなる。
……合体?
「そんな事が出来るのか?」
「正確には半融合ですがね? あなた達だって、他の並行世界にいる自分と精神を半融合させているでしょう?……つまり、それの肉体版です」
「な、なるほど?」
つまり、半融合と言う現象は何も精神だけではなく、肉体でも同じ事が可能……と言う事か!
「よって! 精神体とは違い、肉体の融合は一定の条件が必要になります。例えば同じ並行世界の人間じゃないと無理です。ここの話をすると……ちょっと面倒な内容になってしまうので、ここではそう言う条件があると考えて下さい。取り敢えず、ここでは合体! って言う単語と、気持ちイイッッ! って言う、何処か扇情的かつ刺激的な台詞を覚えて頂ければ幸いです!」
「最後の言葉だけは絶対に違うだろ?」
「何を言いますか! 最後の部分が特に大事です! これは、紳士的に言うと……一万年と二千年前から決まっていた事なのです!」
「八千年過ぎる前に、猛反省して爆発しろ!」
ドォォォォォォォンッッッッ!
無意味に右手拳をギュゥゥゥッ! っと握り締めながら力説した変態が居る中、私は再び爆発させたのだが……リガーの手によって守られていた。
……そう言うの止めてくれないか?
私のフラストレーションが膨れ上がって仕方ないから……。
「つまり、俺とリダの二人も半融合とやらをすれば良いんだな?」
「ノンノン……合体です! ここは私も譲れま……あ、はい! 半融合で結構です! 結構ですから、その右手をやめて! リガーさんまで向けられたら、幾ら私でもマジで消滅しちゃう!」
パラレルは、まもなく土下座していた。
そこまでするのなら、最初から言うんじゃないよ! マジな話っ⁉︎
「ともかく、向こうが半融合して来るのであれば、こちらも同じ様に半融合しなければ勝てません。リガーさんとリダさんの二人は別の並行世界の人間なので、肉体の半融合は極めて困難ではあるのですが……大丈夫! 私、これでもゼロ・パラレルですから! 最強の紳士ですから!」
さっきまで地べたに額を擦り付けて土下座していたパラレルは、何故か踏ん反り返って威張り散らしていた。
多分、自分が特別な存在なんだぞと言う事をアピールしたいんだろう。
そして、私も否定するつもりはない……ないけど。
「コイツ、爆発しても良いか?」
「待って! ちょっと調子に乗ったのは謝りますからっっ!」
イライラした顔になって言う私がいた所で、パラレルが再び土下座を始めた。
だから、土下座をする羽目になると分かっているのなら、最初からするなと、何度……。




