【2】
………と、魔導式の話しはここまでにして。
普通はこんな門外不出級の魔導書を簡単に閲覧する事は出来ない。
しかし、お姫様は普通に自室の本棚に入れてた。
あたしゃ、そこにビックリしたよ……王家の人間はなんでこうぅ、世間知らずなんだよ。
「そういえばさ、リダって寝てるのに頭良いよね?」
「そうか?」
「そうだよ! 私なんかさ? こないだの小テストの為に夜遅くまで勉強したのに、リダより全然悪いわけで……てか、リダは大体満点取るし。どこのチートキャラなの?」
チートキャラではないぞ。
強いて言えば、冒険者協会の会長だからだ。
この程度の問題も解けない様では、会長なんかやれないって事だ。
………とは、言えないなぁ。
「問題が簡単過ぎるだけだ。私がチートと言うわけじゃない」
「その嫌味ったらしい余裕の台詞がチートキャラっぽいと思う」
ルミは僻みっぽく言った。
私は嘆息した。
「まぁ、次の小テストは精霊語か? そこを教えてやるから、いい加減機嫌なおせよ」
苦笑いにも似た顔で言った。
精霊語は、冒険者にとって限りなく必須のスキルだ。
よって冒アカでも習う。
精霊語をマスターすれば、道に迷っても近くの精霊に道を聞く事が出来るし、溶岩エリアのクエストでも精霊が助けてくれる時がある。
強い精霊なら、マグマを消してくれるし、吹雪とかを無くしてくれる精霊もいる。
何より、精霊魔法は精霊語で出来てるので、これが読み書き出来ないと使用する事すら出来ないと来た。
まぁ、精霊石を使って精霊術を使うと言う方法もあるが、補助輪つけた自転車に乗ってる様なものだからな。
ちゃんと精霊語を使っての実践魔法を修得させるのが、この学園のやり方だ。
「ちゃんと解る様に教えるから、後でルミの部屋に行くよ」
「本当! わ~い! リダは教えるのも上手だから、本当に助かるぅ~」
……どうにか機嫌を直してくれたか。
まぁ、今の私達が習ってる精霊語は、はっきり言って初歩中の初歩。
あいうえおを習ってる様なモノだ。
流石に、その位は簡単に教えられると思うんだが……どうだろう?
ふと、そんな事を考えていた時、髪の長い少女に声を掛けられた。
「あなた! さっき、私の事を吹き飛ばそうとしたでしょう?」
なんだ? いきなり言いがかりか?
「人違いじゃありませんか?」
「いいえ! 違います! さっき廊下で飛んで行ったのは、間違いなくあなた!」
……ああ、さっきの。
多分、廊下でジャンプして飛び越えた少女だ。
……思うに、アンタだって角から凄い勢いでこっちに来てたんだから、お互い様だと思うんだが?
「別に吹き飛ばすつもりはありませんでしたよ?」
「嘘おっしゃい! お陰で、私は黒いパンしか食べれなかったんだから!」
少女は瞳に涙を溜めて叫ぶ。
いや、それ絶対に私のせいじゃないから。
「そして! 愛しのパラス様を拐かしているのもあなた!」
「やってないし!」
それこそ、やっかみだ!
もう、完全に言い掛かりとしか思えない事を言って来た少女。
制服を見る限り、一年の様だな。
学園の制服はブレザーとスカートなんだが、ブレザーのネクタイの色で学年が分かる仕組みになっている。
ネクタイは私と同じ赤だった。
つまり、同学年。
んじゃ、いいか。タメ語で。
「何を根拠に言ってるのか知らないけど、パラスは私の友達だ。拐かすとかあり得ないだろ?」
「うきぃぃぃぃ! パラス様のお友だち? お友だちですって? なんて羨ましいの!」
……ただの妬みにしか聞こえないんだが?
私はシラけた目になってしまった。
クラスメートと友達になるのは自然なんじゃないのか?
「とにかく、話しはそれで終りだよな?………ぶぶっ!」
それなら帰ってくれないか? と言おうとした私だが、言うより先に手袋を投げつけられた。
しかも、顔面にクリティカルヒットだ! バカかアンタはっ!
「決闘ですっ!」
髪の長い少女は、闘志をメラメラ燃やして叫んだ。
どうやら、手袋は決闘の申し込みのつもりで投げたらしい。
なんて古風な事をしてくれるんだろうねぇ、この子。
……てか、だ?
「決闘だと?」
顔にバッチィーン! と当たった手袋を取った後、軽く手でさすりながら言う私。
まぁ、私の本当の肩書きを知らないから言ってるんだろうけど、だ?
あたしゃ、会長だぞ?
おまーらのラスボスだぞ?
身の程知らずも甚だしいぞ!
「そうです! そこの名前が良く分かんない人! 名前分かんないから仮名で呼ぶと、胸がペッタン子!」
「どんな仮名付けてんだ!」
ルミの叫び声にペッタン子は激怒してた。
まぁ、たしかにペッタン子だ。
悲しいくらいのペッタン子ぶりだ。
良いんじゃないペッタン子で。
だって、面白いし。
「私には、フラウ・フーリと言う、ちゃんとした名前があるんだから!」
ペッタン子は尚もぷんすか怒って叫んでいた。