そもそも名前などあろう筈もない新世界【4】
……ま、パラレル的に言うのであれば、なるべく被害を最小限に抑えたいと言うのもある為、ここでしっかりと決着を着けたいのだと言う。
……そうな?
私も、ここでしっかりと全てを終わらせたいと、本気で考えているよ。
ただ、ここで仕留められなかった場合……幾つかの並行世界が破壊される危険性は濃厚なのだとか?
さっきも述べたが、やはり似た様な事例は他でもあった。
……本当に、あの道化師はロクな事をしないな!
尤も……今回に関して言うのなら、伝承の道化師を全く見ていない。
これは、私にとっての幸運ではある。
……そう。
悔しいが、これは幸運だ。
私もかなりパワーアップしたと思ってはいるが……それでも、やっぱりまだ伝承の道化師に敵うだけの実力は得ていないと思う。
実際に戦った訳じゃないけど……しかし、それでも私は確信している。
まだまだ強くならなければ、ヤツにはまだ勝てないっ!
これらを加味すれば、ヤツが直接やって来なかった事は、私にとっての幸運であったと言わざる得ない。
本当に本当に悔しいんだけどなっ!
……話を戻そう。
私はパラレルによる空間転移魔法により、N65パラレルが居るだろう世界へとやって来ている……いるのだが、
「それにしても……なにもないな」
……そう! 何もない!
きっと、これが漫画やアニメであったとするのなら、新手の手抜きか? と嘯きたくなるまでに何もない!
一応、地面に値する物はあるのか? そして、重力に値する概念も存在しているらしく……私達は、何もない真っ白な空間の上に立っている。
ただ、それだけだった。
空気と重力がある……そのお陰で、私は普通に呼吸をした状態で地面に足をつける事が出来る……と、ここまでは良しとしても、それ以降がよろしくない。
厳密に言うのなら、それしかない『違和感』で一杯だ!
一体……ここは、どんな世界だと言うのだろうか?
「本当に何もないな……地平線の彼方まで、真っ白だ……こんな世界があるんだな」
私の隣に居たリガーも、驚きと呆れを程よくミックスした状態で口を開いていた。
正直、私も同じ意見しか出ない。
何処までも続く真っ白い世界に驚き……そして、呆れる。
こんな良く分からない、なんの意味があるのかさえ不明の世界に……どうしてN65パラレルはいるのか?
そんな……幾ら考えても解けそうもない謎に、私とリガーの二人が困惑している中、パラレルがゆったりとした口調で答えた。
「この世界は、これから並行世界へと変わる『予定の世界』です。言うなれば、これから新しい並行世界が出現した時……この何もない真っ白な世界に色が付けられ……そして、リダさんやリガーさんの知る様な世界へと変化して行くのですよ」
「……そんな世界があったんだな」
パラレルの言葉を耳にして、私はちょっと驚いてしまった。
つまるに、一つの世界があったとして……それが何らかの切っ掛けにより、二つの並行世界に分離した場合……その一つは、この真っ白い世界へと移行されると……こうなるのか。
「今の所、新世界……つまり、今の様な真っ白い世界は、新しく生まれて行く並行世界の数と同じ数だけ増えています。並行世界で考えるのであれば、まだまだ世界は広く……そして、無限に限りないまでの余剰空間が存在しているので、そこは心配する必要はありませんよ?……まぁ、無駄に一杯の並行世界がありすぎて、管理するのが大変って言うのはありますけどね?」
パラレルは、最後に少しだけ戯ける口調で答えた。
……ふむぅ。
なるほど……並行世界は、こうして自然と別の器が予め生成される事で、次々と移行して行ってるんだなぁ……。
そして同時に思う事がある。
やっぱり変態は、変態であっても……並行世界の管理者なのだな? と。
「本当、そう言う態度を見せていれば、私もお前を変態として扱う事もなくなるだろうに。ベランダから簀巻にして、ずっと吊るされていた……あの変態と同一人物とは思えないぞ」
「そこは私も一言物を申したいっ! 私は紳士であって、変態ではありません! そして、女性の下着を求めると言うのは、根本的な紳士の欲求なのです! ねぇ、リガーさん? あなただって立派な紳士の端くれ……ちょっとリダさんに言ってやってくれません? 昨日ですね? リダさん宅で宿泊させて頂いたのですが……リダさん達は鬼畜外道も甚だしい行為を平然とやってくれたのですよ? なんと、ベランダで布団とロープで自由を奪った挙句、そのままベランダに吊るしたまま一夜を迎えてしまったんですよっ⁉︎ これ、どう思いますっ⁉︎ 絶対におかしいですよねっ⁉︎」
パラレルは、切実な顔になってリガーへと訴え掛けていた。
ハッキリ言って、どの口がそんなふざけた事を言っていると言うのか?
「どうしてそうなったのかは知らないけど、リダ達がそうしたって事は、お前が悪い事だけは理解しているよ」
「ぐはぁぁぁっ!」
そして、リガーの言葉を耳にしてバッタリと倒れた。
いつものパターンなのだが、吐血でもしてるんじゃないのか? って勢いで倒れてはいたけど、単純に大仰なだけであって、口から血反吐が出て来る事はなかった。




