そもそも名前などあろう筈もない新世界【3】
軽く謙遜する感じで、肩を竦めて言うアリンではあったが……私からすれば、ナチュラルに自分を立てる様な台詞を言っている様にしか聞こえないからなっ⁉︎
「……お前ら……私をなんだと思っているんだよ……?」
口元をヒクヒクを痙攣らせて言う私へ、
「え? 魔王リダ?」
カリンはしれっと答え、
「世界最強の哺乳類」
それ、違う人っ!
ネタでも使って良いかで悩む人!
私と同じ所は性別だけの人っっ!
「よぉ〜し、分かった! お前ら……もし、この世界にやって来る時があったら……その時は覚悟しとけ? 思い切り爆発させてやる!」
今の所は、無駄なエナジーを使いたくないから……保留にしてやる!
衝動的に、爆破する所ではあったけどなっ!
「あはは! やっぱりおねーちゃんは、その位の方がおねーちゃんらしいよ! 頑張れ! 応援してる!」
直後、アリンはカラカラと笑った。
でも、ちょっとだけ額から冷や汗が出ている事に気付いた。
精一杯の誤魔化し笑いをしている事だけは分かった!
地味に私が怖いと言う事だけは理解したよ!
リダおねーちゃんは、そこまで怖いおねーちゃんではないぞ!
爆破はするけど!
「リダ姉……もう会う事はないと思うけど……元気でね? うん、会う事ないと思うけど!」
アリンからワンテンポ遅れる形で、カリンが私へと口を開く。
会う事もないと思う……を、わざわざ二回言っていた。
きっと、カリンにとってかなり大事な事だったんだろうっ!
私からすれば、やっぱり最後の記念に爆破してやろうか? って言いたくなる様な台詞だったけどなっ⁉︎
……はぁ、やれやれだ。
最後の最後で、可愛くない双子の妹達を見る羽目になったのは、地味に残念ではあるんだけど……まぁ、良い。
妙に湿っぽくなってしまうより……明るくジョークを言う程度の雰囲気で別れる方が、なんと言うか……私らしくあり、アリン達にも当てはまる事なのだろう。
この様な結論に至った理由はシンプルだ。
この二人は、私の妹だからだ!
だから、きっと……私らしさがこの二人にもあるんじゃないのかな? そうと、大した根拠もなく思えたし、それが事実なんじゃないのかなぁ……と思えたのだ。
うむ……そうだな。
ちょっと腹立たしいかも知れないけど……この位の感覚と言うか、明るい雰囲気のまま別れた方が良い。
でも、私をイジるのは止めて欲しかったなっ!
なにはともあれ。
「じゃあ、さよならだ……アリン、カリン! 次に私がお前らと会う時は、この世界にいる私になるかも知れないけど、もし奇跡的な何かが生まれた時は……また会おうっ!」
私は答え、右手を振りながら……リガーと二人でパラレルの空間転移魔法によって、この世界を後にするのだった。
◯◯◯●●
毎度思うが、瞬間移動って便利だと思う。
視界がフッ……と変わると、そこは全く別の場所に来ている。
文字通り瞬間移動なんだよな。
「……いつか、私達の世界でも、空間転移魔法が生まれる時代が来るのだろうか」
空間転移された直後、私は誰に言う訳でもなく呟くと、
「それは可能です。現に、私の知る限りで既に空間転移が可能になっている並行世界があります……ま、並行世界の間を移動する様な事は出来ない……と言うか、させませんけどね?」
なんの気なしに答えた私の問いに、パラレルがそれとなく返答をして来た。
……ふむ、なるほど。
思えば、召喚魔法は使えるのだから、純粋に空間だけを転移する魔法は使用する事が可能になっている世界は、もう既にあるんだな。
そう考えるのであれば、私達の世界でも、空間転移が交通インフラの一つとして活躍する時代が到来するのかも知れない。
……まぁ、私が生きている間にやって来るとは思えないレベルではあるのだが。
なんにせよ、それは未来の人間が考える事だろう。
今を生きている私が考えなければならないのは……今ある出来事だ。
N65の存在だな。
パラレルの話によると……もう、既にN65は、暴走状態にあるのだと言う。
伝承の道化師から能力を得た者の大半は、我欲に自分の精神を徐々に侵食されて行き……やがて、己の欲望のまま生きるだけの化物に成り下がる……らしい。
かつて、他の並行世界においても似た様な事例は既に起こっており……その時も結構な大事になったそうだ。
故に、今回に関して言うのであれば、まだまだ小さな問題で済んでいるらしい。
実際、混沌龍が出て来ては、街を少し破壊したかも知れないが……大きな被害なんてそんな物だからな?
その他と言えば『郊外で大爆発が起こった』とかあったけど…………まぁ、そこは気にするな。




