そもそも名前などあろう筈もない新世界【2】
実際にリガーへと口に出しても良かったのだが……まぁ、なんと言うか気恥ずかしさが上回った。
きっと、私の中に居るもう一人の私が、今の私へと急ブレーキの様な物を加えて来るのかも知れない。
ここは、私の予測に過ぎないレベルではあるのだが、『これで最後だ!』って感じの台詞を、どうしても口にしたくない……そんな感情が私の中に生まれている。
ただ、この感情が生まれてしまう背景には、この世界に限定して述べると、リガーはちゃんと居るのだ。
そして、この世界に生きている私はそのリガーを……。
………。
まぁ、この世界の私に悪気がある訳ではないし、他の並行世界とは違って、ここでは私とリガーの二人が全くの別人として存在しているのだからして、互いに恋愛感情を抱いたとしても、なんら不思議な事でもない。
もちろん、それを私が止める権利だってありもしないのだ。
だけど……うむぅ……やっぱり、少しだけ私は閉口したい気持ちもあるんだよなぁ……。
だって、リガーはもう一人の私なのだから。
まぁ、でも、リガーってイイ男だと、認めはするよ。
……うん。
そっと、心の中でしか言えない事だけど。
……はは。
私も、少しばかりこの世界の私に感化されているのかも知れないなっ!
さて、気持ちを切り替えようか。
リガーへの感情をアレコレ考えるのは、この大仕事を乗り越えてからでも良いからな!
「まだ眠いかも知れないが……早速向かうぞ? リガー? 今度こそN65の呆れた愚行を正してやる時だ!」
程なくして、私は己を奮い立たせる形で気合いを入れ直しながらも、近くにいたリガーへと答えた。
この言葉に、リガーも笑みを大きく作っては、
「ああ、そうだな! このふざけ切った状況に、俺達で終止符を打ってやろうぜ!」
強い意志を持って私へと返答してみせる。
……うむっ!
やっぱりリガーは私だな!
強い気概と言うか、晴れ晴れとした答えを、私に向かってガツーンッッ! っと見せて来る!
こう言うのは、見ていて本当に清々しいばかりだ!
「……ふむ、それでは参りましょうか。N65パラレルの場所は……ふぅーむ? 昨日と変わりませんね? 最後の悪足掻きに、何処か遠くへと逃げる気でいたのかと思いましたが、どうやら観念したのでしょうかね? むしろ待ち構えているんじゃないのか?……って勢いで動いておりません」
……ふむ。
パラレルの言葉を耳にし、私は一気に表情を引き締めた。
パラレルは比喩的な形で『待ち構えている』と述べているが……私の予測では、比喩でもなんでもなく待ち構えていると思っている。
奴に奥の手があるのなら、間違いなくそうなるだろう。
そして、私は奴を甘くなど見て居ない。
ほぼ確実に、これから私達が乗り込む場所に……ヤツの奥の手が待っていると考えて置いた方が無難だ!
「ここが正念場……って事だな」
そう、ポツリと答えたのはリガーだ。
どうやら、リガーも全く同じ事を考えていたみたいだな。
ここは、もう……言葉は要らないだろう。
リガーは、私なのだから。
「おねーちゃん……元気でね」
間もなく、アリンが笑みのまま答えた。
心成しか……少し寂しそうな笑みに見えた。
否、違う。
何となくではあるが『自分も協力したい!』……そうと、顔が言っている様に感じる。
もちろん、この言葉がアリンの口からやって来たのなら……その答えはノーだ。
これまで、散々迷惑を掛けて来たと言うのに……更に余計な厄介事に巻き込む事なんて出来ない。
何より、N65パラレルが仕掛けて来るだろう奥の手が、どんな代物なのか、今の時点ではサッパリ分からないのだ。
簡素に言うのなら、今のアリンを私が守り切れるか不明なのだ。
確実に危険が迫っているのであれば、アリンを連れて行く事なんて出来ない。
他方、その頃。
カリンは、爽やかな笑みのままアリンへと口を開く。
「リダ姉を助けたいって気持ちは分かるよ?……うん。私も気持ちは同じだからね? だけど、アリン? 考えてもみて? リダ姉ですら死ぬかも知れないんだよ? 私らの様な『か弱い女子』なんか行っても、足を引っ張るだけだと思わない?」
おい、待て。
その言葉を額面通りにすると……私はか弱い女子ではないと言う事になってしまうではないか!
「あはは……やっぱりカリンにはバレてたか……うん、そうだね。今でもやっぱりさ? おねーちゃんの助けになれたらなー? なんて、私なりに思ってはいるんだけど……やっぱりアマゾネスのおねーちゃんですら危険な所に、非力な女の子でしかない私なんか行っても……ね?」
おぉぉぉぉぉいっ!
だから、なんでそうなるっ⁉︎
しかも、アマゾネスとか言うなよ!
リダさんだって、可憐な乙女なんだぞっ⁉︎




