リダさん、死闘の果てに!【7】
『どう言う方法を使ったのかは、俺も知らない。あるいはヤツの憎しみを伝承の道化師が悟って、ヤツを連れて来たのかも知れない......結果、ヤツは生きたままこの世界にやって来るんだ』
......。
一重に信じられない内容だった。
簡素に言うのなら、異世界からの転身だ。
だが、しかし......空間転移を可能にしている伝承の道化師であるのなら、私が元いた世界へと移動する事が可能かも知れないし、逆にこの世界へと戻って来る事も出来そうだ。
そうなれば、当然......その世界にいる人間を、この世界に連れて来る事だって可能になってしまうのかも知れない。
『ヤツは......佐々木はお前に復讐を果たす為に、わざわざ冒険者協会に入った。そして......伝承の道化師から、絶大な能力を与えられ、お前を殺そうとしていた』
それを阻止する為に、私をこの学園に......?
アインの言った事が真実であるのなら、冒険者協会に戻るにしても相応の準備をしないと行けない。
何の準備も無しに戻れば......私は大した抵抗も出来ずに死ぬだろう。
......なるほど。
ここで、私はアインが私へと見せた一連の夢が、私を助けたいが為の物だと言う事を理解した。
最初の夢は、アインと私が幼馴染みである事。
この頃から、味方でありたいと思っていた意思表示だ。
二回目は前世の街角の夢。
この夢を通して、私は前世の記憶を朧気ながら思い出した。
全てではない物の、半分程度の記憶は甦ったと思う。
これによって、アインは前世との繋がりがあった事を私に教えてくれた。
最期の夢は、私が死んでから転生までの流れ。
これによって、私がこの世界にやって来た理由を知った。
なにより、アインが身体を張って私を守ろうとしてくれた事も知った。
一緒に死んだ時......そのまま、同じ宇宙意思の元へと飛んでいたのなら、この悲劇はなかったかも知れない。
そうすれば、きっと私とアインはこの世界で幸せになれたのだろう......。
全ては、最初から決まっていたんだ。
転生した、あの瞬間に。
運命の歯車は、最初の一歩目で既に狂っていた。
全てを悟った時。
「本当......どうして、こうなったんだろうな......」
私は泣いた。
悔しくて泣いた。
本当なら、こんなんじゃない未来があっても良かったのに!
伝承の道化師だか何だか知らないが、こんなのは......こんなのはあんまりだ!
私とアインが手に入れられる筈だった幸せを返せっ!
激情の中......それでも戦わないと行けない相手に、私は強い意思を持って対峙する。
『ああ......どうしてなんだろうな』
アインは私を心から思いやった......思いやってくれた、その結果だと言うのに。
それでも戦わないと行けない現実に、思わず目を背けたくなった。
『俺の言いたい事はそれだけだ......ああ、一つだけ言い忘れた。お前の送って来た冒険者......あれを殺したのも佐々木だ。俺じゃない』
「......なんだと?」
そうか。
ふと、思い出した。
前に、私はアインに私の仲間を殺したかどうかについて質問した時がある。
その時のアインは、肯定こそした物の......どこか悩む様な仕草を見せ、この答えをどう言うかで迷っていたフシがあった。
つまり、そう言う事だったんだ。
本当は殺してなんかいなかった。
けれど、そう言わないと行けなかった。
伝承の道化師に、そう言えと命じられたからだ。
どこまでも腐ったヤツだよ、アイツは......っ!
沸々と精神を怒りが支配して行くのが、嫌でも分かった。
真の敵は、やっぱりヤツだ。
私は伝承の道化師を絶対に許さない!
そんな、私の中に伝承の道化師への憎悪で思考の全てが渦を巻いていた時、アインは言った。
『今度こそ、俺は全てを答えた......じゃあな』
軽く手を振る。
そして、振った手を自分に向けた。
瞬間、アインの手から強烈な魔力の光が生まれた。
......まさか?
「やめろ、アイン! 死ぬぞ!」
明らかに自殺しようとしていたアイン。
そして、最後にどうしてヤツがこの闘技場に出現したのか? その謎が......たった今、解けた。
なんて事はない。
ヤツは最初から......ここで自殺するつもりだったんだ。
自殺するにしても、今のアインの強靭な肉体を滅ぼすには、相応の場所じゃないと周囲を激しく巻き込んでしまう。
そこで、アインはこの闘技場を選んだのだろう。
お前と言うヤツは......っ!




