リダさん、死闘の果てに!【6】
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アインのヤツがどうして学園の闘技場に姿を現し、更に陣取る様な真似をしているのかは分からない。
向こうからすれば、場所なんか何処でも良かった筈なんだ。
けれど、それら様々な選択肢の中、最も人的被害が少ないだろう学園内の闘技場を選んだのは、ヤツなりに多少は残されていた良心だったのか?
その真意は分からない。
今の私が分かる事と言えば、アインがバトルフィールドを闘技場にしてくれた事で、私も心置きなく戦う事が可能になっていると言う事だけだった。
......まぁ、場合によっては半壊または全壊してしまう可能性も無きにしもあらずだけど、こんな事を言ってたらキリがないからな。
どっちにしても、さ?
「やる事は変わらないしな」
私は闘技場の入り口ドアを開けて見せた。
ドアの向こう側は、広いグランドの様なエリアが辺り一面に広がっている。
その中央に......ヤツはいた。
完全に闇と一体化していたアインは、もはや......人間としての原型など、留めてはいなかった。
体格はもちろん、その大きさも人間ではない。
筋骨隆々な体躯は禍々しく、魔神を連想させる。
背中には闇色の炎染みたオーラが肉眼で見る事が出来た。
身長は、優に3メートルはある。
巨人は言い過ぎにせよ、二階建ての家とそこまで大差ない。
この時点で人間じゃなかった。
キング・オーク張りの巨体になってしまった闇色の物体......そんな感想を心の中で抱きつつも、私は闘技場の中央にいるアインの元へとゆっくり歩いて行った。
「来てやったぞ。お前の望みは私だろう?」
『......』
アインの眼前まで来た所で、私は不敵に冗談めかした声を掛けてやるが、ヤツは何も口にしなかった。
......?
何がしたいんだ?
『何処で間違いが起きたんだろうな?』
アインの口が動いた。
それは私に言ってる様であり、自分に対して自問している様にも感じた。
『俺は、お前を助けたかった......あの事故で不慮の死を遂げてしまった、不幸なお前を』
「......」
私は無言になる。
確かにあれは不慮の事故だった。
元来の私は、この世に転生する事でとっくの昔に捨て去ってしまった、忌まわしい前世の記憶だ。
それを、アインのスキルによって思い出す事なるなんて思わなかった。
きっと、アインもかつての私を思い出す事が出来たら、私の気持ちも変わる物だと思って、このスキルを私に掛けたのだろう。
『俺は、お前と違って......前世の記憶を持ったまま、この世界に転生した』
「......そうか」
なんとなくだが、そうなんじゃないかって見当は付いてたよ。
ユニクスも下級悪魔だったと自分で言ってる。
つまり、前世の記憶が残ってるからこそ、その言葉を口にする事が出来るからだ。
『前世の記憶を持ち、来世へ......つまり、今の時代をお前と一緒に生きるつもりだった......そこが、例えゲームの世界であったとしてもだ』
なるほど。
この言葉を聞いて、私は確信した。
伝承の道化師は、この世界を『ゲームをするだけの世界』と言って、アインを転生させたんだ。
私は、宇宙意思の趣味で作られた箱庭の世界と聞かされた。
そう考えると......少し謎だ。
果たして、どちらが真実なのだろう?
ふと、そんな事を考えてしまった私だが、その謎は即座に霧散した。
そりゃさ?......どっちもどっちな、大概過ぎる絵空事みたいな内容ではあるんだけど、私はこの世界が生まれたと言う結果さえあれば、その素因はなんだって構わないと思えたんだ。
『だが、俺は守る筈だったお前の敵にならざる得なかった......俺を転生させたアイツが......伝承の道化師が、敵対する宇宙意思の力で転生していたお前を強く憎んでいた。当然俺は抵抗したが、伝承の道化師に逆らえるだけの力など、俺には存在しなかったんだ』
結局、アインは伝承の道化師の操り人形になるしか他に方法はなかったのか。
『だが、信じて欲しい。予見の力を使ってお前をこの学園に転入させたのは、お前を殺す為ではない。むしろ逆だと言う事を』
「......なんだと?」
私の眉がピクリと動いた。
転入する事が、私を守る事になると言う事か?
「どうしてそうなるんだ?」
『佐々木と言うヤツがいたろう? お前の前世で同級生だった男だ。俺の親友でもある』
「......夢の中で、微かに覚えてはいるが......そいつがどうしたと言うんだ?」
『佐々木は......本当の意味でお前を憎んでいるからだ』
......なぜ?
アインの言葉に、私は思わずハテナで一杯になる。
そもそも、アイツはこの世界とは関係のない前世で生きる人間だと言うのに。




