ドーンテン一族なのに、何故か胸元が大きい女性がいる世界【9】
よし! 取り敢えず……この場は退避だ!
「アリン、リガー、変態! この場は一旦、撤退だ! ソッコーで逃げるぞ!」
素早く叫んだ私の言葉に、
「うん! 分かった! 私達って犯罪者なんだね!」
そんな訳あるかと言いたくなる様なアリンの声がやって来て、
「その方が無難っぽいな!」
リガーが短く相づちを打つと、
「リダさん! ルビを忘れてますよ! そのままだと本当に私は変態になってしまいます!」
変態が非難がましい台詞を、思い切り叫んでいた。
お前なんぞ変態で十分だ!
それ以上の表現なんてないだろ? それなら、むしろこの表現の方がより正確ではないか!
パトカーのサイレンが近付く中、私達は文字通り自宅へと飛んで帰って行くのだった。
◯◯◯●●
兎にも角にも、自宅マンションまで比喩でも何でもなく飛んで戻った私達。
……何とも慌ただしいなぁ……と、地味に他人事の様な事を考えつつ、私は一応の一息をつける場所まで戻って来た事で、束の間の安息を感じていた。
「しかし、相手は何を考えているんだろうな……?」
自宅のリビングに戻って来て間もなく、リガーは神妙な顔のまま口を開いた。
確かにそうだな。
そこは、私も思ってしまう。
何と言うか……相手の意図が読めない。
混沌龍を召喚するに当たって、どんな目的があったと言うのだろう?
「多分、何も考えてないんじゃないんですか? 仮に何かを考えていたとするんのであれば、単なる嫌がらせがしたかった……程度だと思うんですがねぇ?」
程なくして、変態がリガーへと声を返して来た。
……うぅむぅ。
実際問題、パラレルの言い分も間違って居ない様な気がする。
私やリガーの二人がこの世界へとやって来る直前……今居る変態ではない方のパラレルは、私達に対して激怒していた。
その理由に関しては……分からない事もない。
勝手に並行世界を移動して、その管理者だったパラレルの許可を一切取って居なかったのだから。
管理を任されているのだろうパラレルからするのであれば、怒りと非難の対象になっていたとしても、全くおかしな話ではない。
きっと、私だってパラレルの立場になっていれば、文句の一つ程度は言うかも知れないだろう。
しかしながら、今回に関して言うのなら、私の世界にいたパラレルはやり過ぎだ!
ちょっと調子に乗り過ぎ何じゃないのかとさえ思ってしまう。
私としては、ここも少し気になった。
何と言うか……並行世界を管理するパラレルが、それぞれ別の存在である事は理解する事が出来たし、納得もしている。
だから、その世界にいるパラレルは別の意思を持っており、それぞれ固有の性質を持っている。
よって、この世界にいるパラレルと、私の住んでいる世界のパラレルとでは、全くの別人レベルで別の存在であると言うのも理解する事が出来るのだ。
それでも思う。
何で、こんなにも能力の差があるのだ?……と。
もし、今ある問題を引き起こしている張本人が、私の世界にいるパラレルで当たっているのであれば、ここに居る変態と同じ程度のレベルと言う事になる。
まぁ……別に、末端の管理者だから、能力もそれなりに低い……とかって話を言うつもりはないのだが……それにしても能力差が余りにもあり過ぎるのではないのだろうか?
現に、混沌龍を召喚出来るだけの能力を持っているのは、ここにいる変態よりも全然上位に位置する管理者らしい。
つまる所……能力の高さが、そのまま当人の権限に比例するのではないのだろうか?
抽象的に別の物で置き換えて言うのであれば、冒険者のランクと一緒で、能力が高い者はランクもより上位になっているシステムと全く同じなのではないのか?……と言う話だ。
この上で話をして行くのであれば、私の住んでいる世界だけを管理しているパラレルは、そこの変態と同じレベルなのだから、能力も大体同じ程度……と考える事が出来る。
けれど、実際の所はそこの変態を大幅に凌駕した、驚異的な能力を当たり前の様に持っており……今も、未知数と表現しても過言ではない能力を、私達に隠している。
これはどう言う事なのだろうか?
ランクは低くても、能力は高かったと言う事なのか?
まぁ、確かに? 冒険者協会に所属する冒険者の中にも、能力の高い低ランクの冒険者は居る。
みかんの様に、ランクは最底辺だと言うのに、能力はアホみたいに高いヤツだって、確かにいる事はいるんだ。




