同一人物の筈なのに、何故か別の人間として存在している世界【14】
「……な、なんて事だ……まさか、私の管理する世界に、混沌龍が出現するなんて……」
……などと言って来たのは、パラレルだった。
チッ……もう回復したか。
流石は、並行世界の管理者をやっていただけあって、常人を遥かに凌ぐ治癒能力を誇っているらしい。
私が知る限り、そこまでのスピードで回復して来るヤツは、ユニクスしか居ないぞ。
「何だよ、パラレル……お前、まだ生きてたのか」
「ふ……舐めて貰っては困りますよ、リダさん? この私が、淑女の花園へとやって来ていたと言うのに、そのままオメオメとキッチンの隅っこで転がっている様な醜態をいつまでも晒していると思っているのですか? 答えは否です!……否ではあるんですけど、もうリダさんやアリンさんの下着を漁るのは取りやめにしますので、爆破だけは勘弁願えませんかねぇ? これでも、私……ちゃんと真面目な理由でこのお宅にお邪魔しているのですよ……いや、本当! ここだけは真面目に信じて欲しいんですよ!」
パラレルは、地味に気色の悪い笑みを高慢に浮かべつつ……しかし、右手を見た瞬間に態度を一変させると言う、もはやお約束なんじゃないのか?……と、言いたくなる様な事を平然とやらかしてから、必死になって私へと訴え掛ける。
……うむ。
これは信じても良さそうだ。
緊急事態が目に見えているからな?
こんな状態で、まだ私のショーツを漁ろうとしているのなら、爆破して簀巻にした後、そのままベランダに吊るして蓑虫の物真似をさせてやろう。
うむ! 我ながら、ナイス・アイディア!
「……あのぅ……今、物凄く非道かつ悪辣な行為を考えていませんでしたか? 今回の私はマジですよ? もう、これでもかと言うばかりに本気です。リダさんの持つ、こぢんまりとしたブラ如きの為に時間を使う程、暇ではないのです!」
ドォォォォォォォォンッッッ!
パラレルは爆発した。
本当の本当の本っっとぉぉぉぉぉぉぉぉに懲りないヤツだな! 貴様わっ⁉︎
「待て、リダ。そろそろパラレルの虐待は終わりにしとけ」
直後、爆破したパラレルを見た瞬間にリガーが私へと叫ぶ。
「……その台詞はパラレルに言え! 私は好きでやっている訳ではない!」
「それは知っている! だから言ってるんだ! 今は緊急事態なんだぞ? お前のパンツやブラ程度で済むのなら、安い物だと思わないのか!」
「そう言う台詞を、真剣な顔で叫ぶんじゃないよ! バカなの? 死ぬの? 変態なのっ⁉︎」
もう嫌だ! 何なの? コイツら!
しかし、もう一人のリダが『相手がリガーであるのなら、一枚だけ恵んでやっても良いかな……?』とか考えているんだから、マジで始末に負えないぞっ!
この世界には、まともな性質を持っている人間が居ないのか?
つか、人の下着を犠牲にするのが、正しい選択肢だと言うのかっ⁉︎
私は絶対にそう思わないぞっ!
治療魔法!
少し間を置いてから、アリンがパラレルへと治療魔法を発動させていた。
……でも、生理的にダメだったのか? かなり嫌そうな顔を露骨に見せていたりもする。
そこまで嫌なら、やらなければ良いのに。
ただ、アリンもアリンで、現状が極めて危険な状況になっている事を考慮した上で、パラレルに回復魔法を発動させたのだろう。
そうじゃないのなら、間違いなくやらなかったに違いない!
「……おお、爆発魔にやられた傷が癒えて行く……ありがとうアリンちゃん! アナタは私の天使だ! 女神様だ!」
治療魔法を受けたパラレルは、ビックリする程の大仰さでアリンを褒めちぎって見せた。
幾ら何でも卑屈過ぎるだろ……その態度は。
「……え? そんなぁ……天使なんて☆」
だけど、本人は純粋に照れていた。
……本当、どうしてそこで照れる事が出来るんだよ、お前はっ!
くそ! さっきから、ツッコミしかやってない気がする!
もう、良い加減、話を進めてくれないか?
「おい、パラレル……それで? お前はアレを何とか出来る手段を知っていたりするのか?」
「え? 混沌龍を退治する方法ですか?……さぁ?」
「よぉぉぉし! 良く言った! 今度は爆破して簀巻にして、そこのベランダで蓑虫の気持ちになって来い!」
「冗談です! 実は、一つだけ方法があります……ありますが、確実に言える事は、私単体の能力では完全に難しい……申し訳ないのですが、リダさんとリガーさんの力を……そして、アリンちゃんの下着を私に頂けませんか?」
「アリンの下着については問題外だが、他の内容については善処しよう!」
「え! 本当ですか! それなら、もう一声! 色々と善処してもらって下着の方も!……はい、すいません……調子に乗りました」
パラレルは少し興奮する形で、鼻息荒く叫んだ直後に大人しくなった。
私の右手がヤツの前にあったからだ。
本当に、その変態根性は何とかならんのかっっ⁉︎




