同一人物の筈なのに、何故か別の人間として存在している世界【13】
スマホの画面を見る限り……今私達が居る地区の上空に、謎の飛行物体が出現しているらしい。
「……な、なに……これ?」
ワンテンポ置いて、アリンが愕然とした顔になった状態で声を吐き出した。
そんなアリンの視点にあったのは……外だ。
引き戸式になっているアルミサッシの向こう側にあった……何か。
「ど、どうしたんだ、アリン?」
「お、お姉ちゃん……あ、あれ……」
眉を顰めて尋ねる私に、アリンは声を震わせながらも指を指した。
果たして。
「………なっ⁉︎」
私の瞳が真円を描いた。
そこには……明らかに非現実な光景が存在していた。
街の上空……視界の中一杯に広がるトウキの街に、暗黒色の巨大なドラゴンが出現していたのだ!
「……冗談だろ?」
リガーは、独りごちる形で口を開く。
正直、私も冗談だと思いたいね!
けれど……恐らく、これは……冗談なんかじゃ済ます事が出来ないレベルだ!
「お姉ちゃん! テレビでニュースやってる! かなり間近なところまで近付いて、カメラで中継してるよ!」
マジか!
この世界のテレビ局はスタッフに勇者でも居るのかっ⁉︎
どう考えてもヤバイのが出て来たと言うのに、しっかりと放映していたニュース番組の話を聞いた私は、
「凄いね? このマエノって言うアナウンサーさん! 勇者だね! だって、マエノって名前なのに、アナウンサーしてるんだよ! 略したら『マエノ・アナ』だよ! 勇者過ぎるよ!」
勇者の視点が違うだろ!……とツッコミを入れたくなる様な台詞を臆面もなく語っていた。
でも、確かに勇者だな!
イチジクって名前の館長ぐらい勇者だな! 職業変えろよ!
……って、違う!
確かに少し危険な名前になるからやめて欲しい所があるけど……全国にマエノさんは結構いるだろ! その人にだって職業選択の自由はあるんだから、そこにツッコミを入れるのをやめろよ!
と、ともかく……ニュースをみようか。
『私は現在、謎のドラゴンが出現した、マイネ区の上空まで来ております!』
画面の中では、滑空魔法を発動させているだろう、綺麗なおねーさんがマイクを片手に状況を説明していた。
『マエノさん、大丈夫ですか! 危険ですよ! あなた今、スカートで空を飛んでますよね? ちゃんと可愛いパンツを履いてますかっ⁉︎ そして、ある意味であなたのマエノ・ア……』
『セクハラで訴えますよっ⁉︎』
『失礼しました……それで、現場の状態を説明して貰えますか? それと、マエノ・アナの真下にいる男性は何人いますか? そこも詳しく!』
『現在、禍々しい波動を放ったドラゴンが、私の背後に存在しております……見て下さい! ここまで凄まじい迫力を持つ暗黒竜は、新作PCゲームですら表現する事は出来ません! まさにリアルのドラゴン! あたかも、これから私達は食べられてしまうのではないのか?……って、カメラさん? これ、危険じゃないのですか?』
……行く前に気付けよ。
本人は真剣に仕事をしている気持ちでいるのが始末に負えない。
私は、テレビ画面の向こう側にいる、アホなおねーさんを見て、軽く呆れていた。
そして、テレビ局の方でキャスターをしている、男性の司会者が恐ろしく変態チックな台詞を連発していた事にも呆れていた。
お前らは、真面目に報道する気があるのか?
私がマエノ・アナであったのなら、テレビ局の方で司会をしている男を絶対に爆破していたに違いない!
以後も、ふざけた報道が続いていたのだが、
ヒュォォォォォンッッッッ!
間もなくテレビ画面と外の方から、航空機の爆音が聞こえて来る。
……ふむ。
この世界には、普通に戦闘機があるんだな。
恐らく、街のど真ん中に暗黒竜が出現した事でスクランブル発進して来たのだろう。
『たった今、暗黒竜を討伐する為、トウキ帝国・空軍の戦闘機が到着しました! 空軍の皆さん、頑張れ!』
……いや、あんた……そんなに近くにいたら、空軍のミサイルとかに当たるだろっ⁉︎
応援したいのなら、もっと離れろよ!
『おお! それは素晴らしいニュースですね! それで、マエノ・アナの真下には、何名の男性が立ってますか?』
そして、司会者は二度も同じ事を聞くんじゃないよ!
どさくさに紛れて、セクハラしまくってるんじゃないよっっ!
「……凄い事になってるね……これ、かなりヤバくない?」
そこで、アリンがシリアスな顔をして私へと答える。
……確かにシリアスな顔をしなければならない程の事件が起こっているんだけど、今の放映を見ているのに、どうしてお前はそこまでシリアスな顔を保持する事が出来るんだ?
私はメチャクチャ呆れて、シリアスな表情なんか取れないぞ!




