同一人物の筈なのに、何故か別の人間として存在している世界【12】
……ああ、もうっ!
面倒だから、コイツはキッチンの外れ辺りにでも転がして置こう!
そこまでなら、私も担いでやっても良いや。
……いや、担ぐと胸とか触られそうだな……引き摺ろう。
思った私は、倒れたパラレルの右手を取って、キッチンまで引き摺り、そのまま転がして置いた。
「……これでヨシ」
「良い訳がありますかっっ⁉︎」
キッチンに転がした状態を確認した所で、満足そうな顔をした私がいた頃、これまで転がっていた筈のパラレルが素早くむっくりと起き上がって来た。
……何だよ? 案外タフな奴だな?
「今のは本気で死ぬかと思いましたよ! 何なら、少し冥界の入り口が見えた気がしましたよっ⁉︎ マジで鬼ですか、あんたはっっ⁉︎」
そこから、あたかも被害者であるかの様な勢いで泣き叫んで来た。
「お前がふざけた事をほざいて来たからじゃないかっ!」
「私はふざけてません! 真剣に! そう! 超真剣かつ大真面目に、リダさんの寝室で紳士の嗜みがしたいのです!」
ドォォォォォォォォォォン!
パラレルは爆発した。
……本当に懲りない奴め!
「……ふ、ふふふ……まだだ、まだ終わらんよ……はぁはぁ……リダさんの、リダさんのパンツをこの手にするまで、終わってたまるかぁぁぁぁっ!」
「さっさと逝け!」
ドォォォォォォォォンッッッ!
更に爆発するパラレル。
マジで、コイツの生命力はゴキブリ並みかっ⁉︎
無駄にある劣情と言う名の耐久力に、私は思わず強烈な衝撃を受けずには居られなかった。
しかしながら……流石に三発目は火力を上げたからか?
最後は断末魔を上げる形でバッタリ倒れた。
「はぐわぁぁぁぁっ! リダさんのパンツは紐パン希望ぅっっ!」
そんなの履くかっ! 途中で紐が解けたら事件じゃないかっっ!
……全く! 私は、どうしてこんな変態を自宅に上げてしまったのか……。
思えば、本意で上げた訳じゃなかったな……と、今更ながら思う私が居たのだが、取り敢えず無視する形で自宅のリビングへと向かう。
リビングには、既にアリンとリガーの二人が座っていた。
「あはは! そうなんですねぇ〜♪」
軽く談笑をしていたアリンは……思いの他、リガーと打ち解けあっていた模様だ。
私としては、妹と仲良くやっている光景は嬉しく思う筈なのだが……うぅむ。
なんと言うか、その……モヤモヤした感情が、私の中に生まれているのが、自分でも分かる……分かるんだけど……ぐぅむ。
この感情は、間違いなく私の中に存在しているのだろう、この世界のリダが持っている感情だ。
……間違いない。
私が持っている感情であろう筈がない。
そこらは分かっている。
だけど、なんか……こうぅ……ムカムカして仕方ない。
この世界のリダは、地味に独占欲が強いんだな。
自分の妹と仲良く話をしているだけで、ここまで気分を害するんだからな。
私がそう思っている訳ではないけどなっ!
と、ともかく!
「戻ったぞ! 取り敢えず、変態はキッチンに転がして置いた」
心の中にあるモヤモヤを、どうにか堪える形で……なるべく平静を装いながらも声を吐き出した。
「……あ、おねーちゃん。居たの?」
居て悪いかよ!
つか、さっき帰って来たんだから、居るに決まってるだろ!
「リガーさんって、良い人だね〜! 私、おねーちゃんがフラれたら、次の彼女に立候補しちゃうよ!」
立候補するんじゃないよ!
そして、私がフラれる前提で物を言うんじゃないよっっっ⁉︎
「はは! じゃ、その時は指名しようかな〜?……って、リダ? 何、そこまでマジになってんだ? こんなの冗談に決まってるだろ?」
そこからノリで口を動かすリガーの眼前に右手を向けてやり、即座に顔を蒼白にさせていた。
そう言う冗談はやめてくれ。
私本人は良いけど、私の中に居るもう一人の私が激怒するんだよ!
もうぅぅ……私も驚くまでの猛烈さで、だっ!
「えっ! 冗談なのっ⁉︎ ひ、酷い! 乙女の純情を踏みにじるなんてっ!」
程なくして、アリンが『ガガーンッッ!』って顔になって叫んだ。
どう考えても、今のは冗談のノリだったろうに……はぁ。
コイツらに付き合っていたら、私の精神が持たないぞ……全く。
何とも脱力感が漲る、途方もなく下らない会話が続いていた……その時だ。
私のスマホから、謎のアラームが鳴った!
……いや、違う。
私のはもちろん、アリンやリガーの二人が持っている端末からも、同じ様なアラーム音が甲高く鳴り響いていた!
な、何だ、これはっ⁉︎
何の前触れもなく、突拍子のない謎のアラームを前にして、私はひたすら慌てながらも……アラームが鳴り続けるスマホをポケットから取り出した。
すると……っ⁉︎
画面には、未確認飛行物体の襲来……とか言う、謎の警報が発生されていた!
「……はぁ?」
私はポカンとなる事しか出来なかった。




