全てが異なるのに、周りに居るメンバーだけ全て同じ(一部誤差あり)の世界【21】
いつになく神妙な顔付きになっていたリガーは、自分の胸元に引き寄せていた私へと、無駄に情熱的な瞳を向けて来る。
……へっ⁉︎
妙にドキリとなる私がいた。
い、いや……その、なんだ?
いきなり、だな?
リガーが本気の目で私を見て来たんだ!
そもそも、校門の前で私を自分の胸元に引き寄せている時点で、私的にはアウト!
幾ら、アリンにフェイクである事を悟られない様にする為であると言っても……ちょっと……いや! かなりやり過ぎだった!
そうだと言うのに……この上、更に踏み込む気……なのかっ⁉︎
ま、まて、リガー!
これ以上の事をしてしまったら……もはや、それはフェイクであろうとなかろうと、完全に恋人同然だ!
恋人の条件なんてのは曖昧で……互いに恋人と認めた瞬間に成立する物。
簡素に言うのなら、結婚をするのとは違い、一定の制約に縛られる訳でもなければ、新しい家族として成立する訳でもない。
だから……恋人の条件なんて物は、その人間によって千差万別と言える。
行き着く所は、互いの気持ちが一番の問題なのかも知れないが……。
例えフェイクであったとしても、やって良い物と悪い物があるだろっ⁉︎
私は、心の中で大きく激しく激昂していた。
……が、現実の私はと言うと……まるで借りて来た猫の様に、静かにリガーの胸元で丸まっていた。
べ、別に意図してやっていた訳ではないぞ!
け、けど!……なんか、妙に緊張して……身体が上手く動かないっ!
同時に私の心臓が、無駄に加速して行く中……情熱的な瞳を保持したまま、私の頬を右手で触って来た。
ふぐわぁっ!
お、おま……マジでやめろよっ!
お前はもう一人の私だぞっ⁉︎
お前は、自分に対して発情する事の出来る変態なのかっ⁉︎
「可愛いな、リダ? マジで可愛い!」
「………っ!」
や〜め〜ろ〜っっ!
やたら熱のこもった瞳のまま私を見据え、頬を触って来たリガーは……間もなく、私のアゴを軽くクイッ! っと持ち上げ……そして自分の唇を……って、何してるんだよ、お前わぁぁぁぁぁぁっっっ⁉︎
や、やばい!
こ、このままだと……私、リガーとキスする羽目にぃっ⁉︎
で、でも、これはノーカンだ……よ、な?
だって、相手はもう一人の私だし?
けど、なんか、滅茶苦茶ドキドキして仕方ないんですがっっっ⁉︎
……心臓が破裂してしまうんじゃないのか? と、本気で思えて仕方ない私が居る中……それでも、唇をキュッ! と閉めながらも、リガーの唇を受け止めようとしていた頃、
「わ、わかりました! 信用します! しますから! そこでストップして下さい!」
アリンが止めに入った。
……あれ?
正直、かなり意外だった。
まさかアリンが止めにやって来るとは……っ⁉︎
そこまで考えた所で、周囲に妙な人だかりが生まれていた事に気付いた。
……見れば、下校途中の生徒が、見事な野次馬状態で私達二人を囲んでいたのだ。
はわぁぁぁぁぁぁぁっっ⁉︎
もう、見事な晒し者だっ!
こんな恥ずかしい目に遭ったのは、私の人生に置いてもかなり稀だぞっ⁉︎
つか、ここまで大っぴらにやり過ぎたら……確実に指導の先生まで話が届くではないかっ!
「……あら? これは少しマズいか?」
それら一連の状況を見たリガーが、苦笑混じりになって言う。
マズいなんてモンじゃないぞ!
この調子だと、良くて一時間の説教……悪ければ謹慎だ!
マジでロクな事をしないな!
「……本当、ビックリしたよ……まさか、あのおねーちゃんが校門の前でキスをしようとしているのに、全然抵抗しないでキスを受け止めようとしているんだモン……これは、もう、信じるしかないじゃない……」
他方、アリンは嘆息混じりになって、私やリガーの二人へと声を吐き出して行く。
直接的な意味と言うか、私に対する悪口をストレートに言っていた訳ではないのだが……何やら、妙に含みのある台詞に感じてしまうのは、気のせいだろうか?
正直、アリンの奴には、何か言ってやりたい気持ちがそこかしこに存在している私ではあるんだが……まぁ、良い。
取り敢えず、一応は信用してくれたみたいだしな。
私としては、アリンに仮初めの恋人を演じている行為、その物に対して、良心の呵責が生まれている。
本当であるのなら、私だってアリンを騙す様な事をしたいとは思わないし、今すぐにでも真実を口にしたい気持ちだってある……あるんだ。
しかし、私は思う。
この世界に居るアリンを巻き込む訳には行かない……と。




